男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「はは。アルコール度数高いから飲めるって思ってなかった?桜葉さん。実は飲めるんだなぁ、これが。もちろん、深酒しないように合間で水とか炭酸水とか飲んだ方が良いけどね。……分かるよ、観月さん。ホント、お2人とも言うことがカッコイイよねー。」
いや。だから…中瀬さん、やめて下さいって…。
それに…お前らも納得するなよ。
「こんな“大人の男”になれるように、20代っていうのは【経験を積む期間】なんだよ。実はね。3人とも、今日は【社会勉強ができる日】だから鳴海さんや本条さんみたいな“素敵な上司さん"たちからたくさん学ぶと良い。酒の飲み方だったり、仕事の仕方だったり、女性の口説き方だったりね。……鳴海さん、"ヘネシー"…ありますよ。」
"ヘネシー"か…。いいな。俺も飲みたい。
あと、今「俺と“鳴海先輩”なら、女の口説き方を知ってるから。」みたいなことを言わなかったか?
勘弁してくれ、中瀬さん。
「じゃあ、それをぜひ。……で?何で昴は飲んでないの?…ウーロン茶でしょ?それ。」
「マジっすか!?なんで……。」
「…それ、単なるウーロン茶だったんですか!?…てっきり"ウーロンハイ"かと思いました。」
「今日は車で来たから飲めないんだ。観月、桜葉。……理由は姉さんと、姫野さんの【帰りの足】の心配も加味して考慮した結果です。……これで満足ですか?“先輩”。…中瀬さん。ちなみに、鳴海さんは今は上司ですが、俺の高校からの先輩でもあります。」
俺は、ジャケットの内ポケットから車のキーを出し、あえてテーブルの上に置いた。
「なるほど、それで“先輩”ね。」
「おーおー。言うねぇ。“紳士”だねぇ……。」
あー。“先輩”の、あのニヤケ顔…ぶっ飛ばしてぇ。
「課長、やばい!マジでカッコイイ!!」
「――っ!」
それはどーも。
お前らに言わせたら、何でも「カッコイイ。」になるな。
それにしても――。
観月の驚いて目を見開いた後の…苦々しい表情は…やっぱり――。
お前も、"好き"なんだな……姫野さんが。
「若手の3人、分かる?…こういうのだよ。…で。もっと言えば、彼は女性陣にこのことを言わないはずさ。ほら。もうキー、仕舞ってるしね。男って、こういうものだよ。」
「…ところで。中瀬さん、先ほど俺たちがIT関係の会社に勤めてると言った時、反応してましたけど…何か気になってることがありましたか?」
「あぁ、えっとね……。」
「鳴海部長、本条課長。お待たせしました。」
中瀬さんと話していると、姫野さんと鈴原が俺たちの元までやって来る。
「あぁ。中瀬さん…話の途中で申し訳ない。後ほど。」
「僕の方は良いよ。先に女性陣、座らせてあげな。」
「あっ、すみません。お話の途中で…。」
姫野さんと鈴原が、同時に謝ってくる。
「いや。中瀬さんも、ああ言ってくれてるし…良いんじゃないか。先に座れば。…鈴原は“鳴海さん”の隣な。……姫野さんは、どうしたい?」
俺がそう聞くと、姫野さんは一瞬迷っている表情を見せたが、すぐに鈴原に耳打ちで何かを伝えている様子。
"何か"を受け取った鈴原は、姫野さんにニコリと微笑み…そのあと俺にこう告げる。
「課長。お手数ですけど、席のご移動をお願いできますか?」
「…あの、本条課長。私が課長の隣に座わるのではいろいろと力不足かと思いますが、課長じゃないと…私がまだ怖いというか…不安で。」
――っ!なんて【破壊力】だろうか。
こんなに艶めかしい表情を見ることになるとは……。
もちろん、本人は無自覚だろうがな……。
「鈴原と俺の間に、あなたに座ってもらうようにすれば良いか?」
「はい、それでお願いします。」
「姫野さん。今日はあなたが少し【頑張らなきゃいけない日】だ。あなたが話をすること以外で強い不安を感じなくていい環境を作りたい。俺が隣に居ることで姫野さんが少しでも不安を感じずに居られるなら、喜んで隣に居るさ…光栄だよ。ありがとう。…それに、力不足なんてとんでもない。俺の方こそ、姫野さんの隣に居るのがおこがましいぐらいの男だよ。……桜葉。悪いな、観月の方にずれてくれないか?」
「もちろんです。それより、なんてカッコイイ会話してるんですか、2人で。」
こうして、“先輩”と桜葉の間に俺たち3人が座れるスペースが出来上がる。
「…あっ。本条さん、そのまま…。“彼女たち”のと一緒にあなたのドリンクも僕が運びますから。」
「…あっ。すみません、中瀬さん。」
そう言って彼は、鈴原のファジーネーブルと姫野さんのウーロン茶とともに、俺のウーロン茶も持ってきてくれた。
「はい、鈴原さん。ファジーネーブルね。鳴海さんから聞いて少し薄めに作ったけど、ゆっくり飲んでね。」
「えっ、部長が?…あっ、とにかくありがとうございます、中瀬マスター。」
「うん、鳴海さんが。『鈴原さん。お酒酔いやすいんだけど、1杯は飲みたいみたいです。』って。“女性に無理にお酒を勧めない男性”、素敵だね。……『中瀬マスター』か…良い響きだね。」
「はい。姫野さんと本条さんはウーロン茶ね。」
「ありがとうございます。……課長、お車なんですか?」
「そうだな。いったん家に帰って着替えて出直したら、時間ギリギリになりそうだったから車にしたんだ。」
「姫野さんは?あなたも本来は飲めるはずだ。」
「今日は…話す内容が内容なので、話してる途中で過呼吸の発作とか出そうかなと……。それで、大きかったら薬の服用とか病院での処置とかいろいろあるので控えました。……蕁麻疹が出たりも、もうすでにしちゃってますし。」
「あぁ、そうだ。その話。……それから。【中瀬さんの言いかけた話】も…。」
「あぁ。さっきの話なら、別に大したことじゃないんだけど――。」と話し出した中瀬さん。
内容としては、この店のPCを新しいものに変え、従業員も含めてシフト表を共有したりしたいとのことだった。
なんでも。この店の"No.2"で、機械に強そうな現役の男子大学生に機械化を勧められたのだとか。
「もちろん、できますよ。機械化を進めて業務を効率化することは。……私の名刺です。ご都合のつく日時をご連絡いただければ、パソコンのカタログを持って後日また改めて伺います。」
「さすがは〔営業〕の“課長さん”。1人称は“俺”から“私”になるし、ビジネストークへの切り替えはバッチリだし…名刺は持ち歩いてるし…。ぜひお願いします。…そこで“本条課長さん”、僕のわがままを1つ聞いていただけませんか?」
「何でしょうか?」
「これから来ていただくにあたり、担当の方が決まると思うのですが、可能であれば…姫野 雅さんでお願いしたいなと思いまして――。」
…はは、なるほど。そうきたか!
「えっ、私ですか!?…えっと。」
――まぁ、彼女は当然戸惑っているわけで…。
「姫野さん。急な申し出だから、あなたに…『営業マンはいかにして"営業"を掛けるのか。』ってことをまだ教えていない。返答に困るのも当然だ。今から俺が手短に説明するから、それを踏まえて引き受けるかどうか決めればいい。」
「はい。」
いや。だから…中瀬さん、やめて下さいって…。
それに…お前らも納得するなよ。
「こんな“大人の男”になれるように、20代っていうのは【経験を積む期間】なんだよ。実はね。3人とも、今日は【社会勉強ができる日】だから鳴海さんや本条さんみたいな“素敵な上司さん"たちからたくさん学ぶと良い。酒の飲み方だったり、仕事の仕方だったり、女性の口説き方だったりね。……鳴海さん、"ヘネシー"…ありますよ。」
"ヘネシー"か…。いいな。俺も飲みたい。
あと、今「俺と“鳴海先輩”なら、女の口説き方を知ってるから。」みたいなことを言わなかったか?
勘弁してくれ、中瀬さん。
「じゃあ、それをぜひ。……で?何で昴は飲んでないの?…ウーロン茶でしょ?それ。」
「マジっすか!?なんで……。」
「…それ、単なるウーロン茶だったんですか!?…てっきり"ウーロンハイ"かと思いました。」
「今日は車で来たから飲めないんだ。観月、桜葉。……理由は姉さんと、姫野さんの【帰りの足】の心配も加味して考慮した結果です。……これで満足ですか?“先輩”。…中瀬さん。ちなみに、鳴海さんは今は上司ですが、俺の高校からの先輩でもあります。」
俺は、ジャケットの内ポケットから車のキーを出し、あえてテーブルの上に置いた。
「なるほど、それで“先輩”ね。」
「おーおー。言うねぇ。“紳士”だねぇ……。」
あー。“先輩”の、あのニヤケ顔…ぶっ飛ばしてぇ。
「課長、やばい!マジでカッコイイ!!」
「――っ!」
それはどーも。
お前らに言わせたら、何でも「カッコイイ。」になるな。
それにしても――。
観月の驚いて目を見開いた後の…苦々しい表情は…やっぱり――。
お前も、"好き"なんだな……姫野さんが。
「若手の3人、分かる?…こういうのだよ。…で。もっと言えば、彼は女性陣にこのことを言わないはずさ。ほら。もうキー、仕舞ってるしね。男って、こういうものだよ。」
「…ところで。中瀬さん、先ほど俺たちがIT関係の会社に勤めてると言った時、反応してましたけど…何か気になってることがありましたか?」
「あぁ、えっとね……。」
「鳴海部長、本条課長。お待たせしました。」
中瀬さんと話していると、姫野さんと鈴原が俺たちの元までやって来る。
「あぁ。中瀬さん…話の途中で申し訳ない。後ほど。」
「僕の方は良いよ。先に女性陣、座らせてあげな。」
「あっ、すみません。お話の途中で…。」
姫野さんと鈴原が、同時に謝ってくる。
「いや。中瀬さんも、ああ言ってくれてるし…良いんじゃないか。先に座れば。…鈴原は“鳴海さん”の隣な。……姫野さんは、どうしたい?」
俺がそう聞くと、姫野さんは一瞬迷っている表情を見せたが、すぐに鈴原に耳打ちで何かを伝えている様子。
"何か"を受け取った鈴原は、姫野さんにニコリと微笑み…そのあと俺にこう告げる。
「課長。お手数ですけど、席のご移動をお願いできますか?」
「…あの、本条課長。私が課長の隣に座わるのではいろいろと力不足かと思いますが、課長じゃないと…私がまだ怖いというか…不安で。」
――っ!なんて【破壊力】だろうか。
こんなに艶めかしい表情を見ることになるとは……。
もちろん、本人は無自覚だろうがな……。
「鈴原と俺の間に、あなたに座ってもらうようにすれば良いか?」
「はい、それでお願いします。」
「姫野さん。今日はあなたが少し【頑張らなきゃいけない日】だ。あなたが話をすること以外で強い不安を感じなくていい環境を作りたい。俺が隣に居ることで姫野さんが少しでも不安を感じずに居られるなら、喜んで隣に居るさ…光栄だよ。ありがとう。…それに、力不足なんてとんでもない。俺の方こそ、姫野さんの隣に居るのがおこがましいぐらいの男だよ。……桜葉。悪いな、観月の方にずれてくれないか?」
「もちろんです。それより、なんてカッコイイ会話してるんですか、2人で。」
こうして、“先輩”と桜葉の間に俺たち3人が座れるスペースが出来上がる。
「…あっ。本条さん、そのまま…。“彼女たち”のと一緒にあなたのドリンクも僕が運びますから。」
「…あっ。すみません、中瀬さん。」
そう言って彼は、鈴原のファジーネーブルと姫野さんのウーロン茶とともに、俺のウーロン茶も持ってきてくれた。
「はい、鈴原さん。ファジーネーブルね。鳴海さんから聞いて少し薄めに作ったけど、ゆっくり飲んでね。」
「えっ、部長が?…あっ、とにかくありがとうございます、中瀬マスター。」
「うん、鳴海さんが。『鈴原さん。お酒酔いやすいんだけど、1杯は飲みたいみたいです。』って。“女性に無理にお酒を勧めない男性”、素敵だね。……『中瀬マスター』か…良い響きだね。」
「はい。姫野さんと本条さんはウーロン茶ね。」
「ありがとうございます。……課長、お車なんですか?」
「そうだな。いったん家に帰って着替えて出直したら、時間ギリギリになりそうだったから車にしたんだ。」
「姫野さんは?あなたも本来は飲めるはずだ。」
「今日は…話す内容が内容なので、話してる途中で過呼吸の発作とか出そうかなと……。それで、大きかったら薬の服用とか病院での処置とかいろいろあるので控えました。……蕁麻疹が出たりも、もうすでにしちゃってますし。」
「あぁ、そうだ。その話。……それから。【中瀬さんの言いかけた話】も…。」
「あぁ。さっきの話なら、別に大したことじゃないんだけど――。」と話し出した中瀬さん。
内容としては、この店のPCを新しいものに変え、従業員も含めてシフト表を共有したりしたいとのことだった。
なんでも。この店の"No.2"で、機械に強そうな現役の男子大学生に機械化を勧められたのだとか。
「もちろん、できますよ。機械化を進めて業務を効率化することは。……私の名刺です。ご都合のつく日時をご連絡いただければ、パソコンのカタログを持って後日また改めて伺います。」
「さすがは〔営業〕の“課長さん”。1人称は“俺”から“私”になるし、ビジネストークへの切り替えはバッチリだし…名刺は持ち歩いてるし…。ぜひお願いします。…そこで“本条課長さん”、僕のわがままを1つ聞いていただけませんか?」
「何でしょうか?」
「これから来ていただくにあたり、担当の方が決まると思うのですが、可能であれば…姫野 雅さんでお願いしたいなと思いまして――。」
…はは、なるほど。そうきたか!
「えっ、私ですか!?…えっと。」
――まぁ、彼女は当然戸惑っているわけで…。
「姫野さん。急な申し出だから、あなたに…『営業マンはいかにして"営業"を掛けるのか。』ってことをまだ教えていない。返答に困るのも当然だ。今から俺が手短に説明するから、それを踏まえて引き受けるかどうか決めればいい。」
「はい。」