男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
姉さん……。 響が落ち込んでるぞ。
ダメだろ、子供の意欲を削いだら……。
患者には優しいって評判なのにな、親って自分の子供には高望みするもんなのか?
「うーん、何か良い方法な。ちなみに。響は本読むの苦手だから直したいってことでいいか?」
「うん。直したいよ。だって、ママ疲れちゃうじゃん。怒ってばっかりだったら。お仕事も大変なの、知ってるしさ。」
響……。 お前……。優しいな。
「そうだなー。何か良い方法……。」
俺が響からの投げかけに対して、考えを巡らせていると姫野さんが彼の肩をポンポンと叩き呼び掛けているのが目に入る。
「“きょーくん”。お隣、座ってもいい?」
「…あ、“みやびお姉ちゃん”。いいよ。」
「良かったね、“昴お兄ちゃん”と話せて。…それで、どうしたの?“お兄ちゃん”と2人で『うーん。』って何か悩んでるみたいだったけど…。」
「…ねぇ。“みやびお姉ちゃん”って、本読むの好き?」
「本?好きだよ。」
「僕。本読むの嫌いでさ、何か良い方法ない?」
「なるほど、それで一緒に考えてたんだね。響くんは…読むのに必死になったりしてないかな?"宿題だからやらなきゃ!"とか"上手に読まなきゃ!"みたいな感じ…。」
姫野さんにそう言われた響は、驚いた顔をしていた。
「そうかも…。宿題だからやんなきゃいけないし、パパとママには…やっぱり褒めてもらいたいから。」
「そうだよね。パパとママには褒めてもらいたいよね!分かるよ!褒めてもらえると嬉しいもんね!…でも、その【しなきゃいけない】って気持ちが上手くできない原因かもしれないよ。響くん緊張しちゃってるのかも。"上手く読めなくてもまた練習すればいいやー。"ぐらいの気持ちでやってみると良いんじゃないかな?…本読みの宿題中にパパやママがすごく怒ってたことある?」
「ううん、ないよ。"しょーがないなぁ…。"って感じ。」
「それなら、きっと本気で怒ってないから失敗しても大丈夫!」
すごいな、姫野さん。
さっきまで、あんなに憂鬱そうな顔してた響がいきいきしてる。
花純を相手にしてくれた時から思ったが、扱いに慣れてるな。……子供、好きなんだな。
「あとはねー。"とっておきの方法"、教えてあげる。」
「なになに?」
「物語を読む時に、登場人物になったつもりで…周りの景色とか"このあとお話はどうなっていくのか"ってことを考えながら…予想しながら読むと、きっと楽しくなると思うよ。」
「“すばる兄”は?」
「うん?そうだな、俺も"どうなっていくのか"ってことを考えながら読んでるよ。俺は"推理するやつ"が好きだから、犯人が誰か考えたりトリックのこと考えてるかな。」
「そうなんだ!じゃあ、"推理するやつ"を読んでる時は、“すばる兄”は"探偵"なんだね!」
「そうそう!“探偵さん”だね!そんな風に読んでみると、考えるのが楽しくなって…あっという間に読めちゃうかも。」
「なんかワクワクしてきた!明日からやってみるー!ありがとう!“みやびお姉ちゃん”。」
「どういたしまして、響くん。また、この方法どうだったか教えてね!本読み、いっぱいできるようになったら…たくさんお話しようね!」
「うん!」
響は本当に嬉しそうだった。
「“お姉ちゃん”は?…どんなの読むの?…あと。“お姉ちゃん”、食べてる?さっきから、僕と花純に話してばっかりだよ。」
「うーん。たくさん読むけど、“お兄ちゃん”と一緒かな。"推理するやつ"。……少しずつ食べてるから大丈夫だよ。この後【大事なお話】するから、それ終わるまでは、お腹いっぱい食べられないの。心配してくれてありがとう。」
…お、そうなのか?
作家で誰が好きなんだろうな…タイミングがあれば聞いてみようか。
俺も気になってはいたが、そういうことか…。
緊張で喉を通らないのか、別の理由か…何だろうな。
「そうなんだ!じゃあ、“すばる兄”とたくさん話せばいいじゃん!……ホントに大丈夫?」
響に「そうだね、“お兄ちゃん”ともお話してみるね。……うん。大丈夫だよ、ありがとう。」と姫野さんは笑い、そのあと俺にも微笑んだ。
響、お前なぁ…。
「俺とたくさん話せばいい。」は余計だよ。
「パーパー!“すばにぃ”とピアノひいてー!」
ジュースを飲み終わると同時に、花純の駄々をこねる声が聞こえてくる。
あえて言う必要がないから黙ってたけど…バレたな。
そして、そんな花純の言葉を聞き姫野さんは驚きで固まっていて、あとのメンバーからは「は?昴、お前。ピアノ弾けんの!?」とか「課長、カッコよすぎます!」とか…いろいろ言われた。
そうか。“鳴海先輩”にも言ってなかったな…。
「ダメだよ、花純。ジュース飲んだら、パパとお兄ちゃんとお家に帰る約束だったよね?」
「やーだ。ピアノ!“すばにぃ”とピアノひいてー!」
「花純、ホントにパパと“すばにぃ”がピアノ弾いたら、ちゃんとお家に帰るって"お約束"できるか?」
俺は花純の前にしゃがんで、彼女に言い聞かせる。
花純が「うん!」と返事している横で姉さんは「もう、花純を甘やかさないでよ。」とちょっと小言を零している。
そんな様子を見て「まぁまぁ、渚。」と姉さんを宥めている奏士義兄さんも、相当姉さんを甘やかしてると思うぞ?気づいてるか?
「花純、何弾いてほしいの?…"保育園で歌ってるやつ"?」
「ちがうの!ママがすきなやつか、パパがすきなやつ。」
そして義兄さんは、花純のリクエストを解読するべく、本人にちょっと歌わせていた。
さすがに俺には分からなかったが、何度かそれを繰り返しているうちに義兄さんには分かったようで「あー。」と納得の声を上げた後、俺にこう告げる。
「昴くん。【5分ぐらいの休憩】つもりで弾こうか。僕の好きな"あの曲"を…。」
ジャズ界で【5分ぐらいの休憩】と言ったら… "あの曲"だな。
俺と義兄さんが準備をしていると、「あっ。さすがは雅ちゃん。その顔は、もう何弾くか分かってるって感じね。ジャズ好きなだけあるわ!」なんて言う姉さんの声が聞こえてくる。
そして中瀬さんがBGMを止めに行き、戻ってきたのを見計らって義兄さんは拍のカウントを取った。
「1,2,3,4!」
義兄さんのピアノで奏でるベース音に合わせて、俺もあの【特徴あるメロディ】を乗せていく。
その際、一つの椅子に2人で座ったのだが…これはある意味即興で連弾する時の醍醐味と言える。
「わぁ……!課長、白石さん……カッコイイ、素敵。」
姫野さん。"もう言葉が出てこない"って感じなのか?
まさか、そんなに感動してもらえるとは思ってなかったよ。
「奏士さんが弾けるのは当たり前だけど、まさか本条さんまで弾けるなんてね…。さすがは“ジャズ好きのなぎちゃんの弟さん”だな。」
中瀬さん、俺が弾けるのは【ジャズの定番】だけですよ。
音大出てるわけでもないし、ピアノをまともに触るようになったのはジャズにハマった高校時代からだったし……。
ダメだろ、子供の意欲を削いだら……。
患者には優しいって評判なのにな、親って自分の子供には高望みするもんなのか?
「うーん、何か良い方法な。ちなみに。響は本読むの苦手だから直したいってことでいいか?」
「うん。直したいよ。だって、ママ疲れちゃうじゃん。怒ってばっかりだったら。お仕事も大変なの、知ってるしさ。」
響……。 お前……。優しいな。
「そうだなー。何か良い方法……。」
俺が響からの投げかけに対して、考えを巡らせていると姫野さんが彼の肩をポンポンと叩き呼び掛けているのが目に入る。
「“きょーくん”。お隣、座ってもいい?」
「…あ、“みやびお姉ちゃん”。いいよ。」
「良かったね、“昴お兄ちゃん”と話せて。…それで、どうしたの?“お兄ちゃん”と2人で『うーん。』って何か悩んでるみたいだったけど…。」
「…ねぇ。“みやびお姉ちゃん”って、本読むの好き?」
「本?好きだよ。」
「僕。本読むの嫌いでさ、何か良い方法ない?」
「なるほど、それで一緒に考えてたんだね。響くんは…読むのに必死になったりしてないかな?"宿題だからやらなきゃ!"とか"上手に読まなきゃ!"みたいな感じ…。」
姫野さんにそう言われた響は、驚いた顔をしていた。
「そうかも…。宿題だからやんなきゃいけないし、パパとママには…やっぱり褒めてもらいたいから。」
「そうだよね。パパとママには褒めてもらいたいよね!分かるよ!褒めてもらえると嬉しいもんね!…でも、その【しなきゃいけない】って気持ちが上手くできない原因かもしれないよ。響くん緊張しちゃってるのかも。"上手く読めなくてもまた練習すればいいやー。"ぐらいの気持ちでやってみると良いんじゃないかな?…本読みの宿題中にパパやママがすごく怒ってたことある?」
「ううん、ないよ。"しょーがないなぁ…。"って感じ。」
「それなら、きっと本気で怒ってないから失敗しても大丈夫!」
すごいな、姫野さん。
さっきまで、あんなに憂鬱そうな顔してた響がいきいきしてる。
花純を相手にしてくれた時から思ったが、扱いに慣れてるな。……子供、好きなんだな。
「あとはねー。"とっておきの方法"、教えてあげる。」
「なになに?」
「物語を読む時に、登場人物になったつもりで…周りの景色とか"このあとお話はどうなっていくのか"ってことを考えながら…予想しながら読むと、きっと楽しくなると思うよ。」
「“すばる兄”は?」
「うん?そうだな、俺も"どうなっていくのか"ってことを考えながら読んでるよ。俺は"推理するやつ"が好きだから、犯人が誰か考えたりトリックのこと考えてるかな。」
「そうなんだ!じゃあ、"推理するやつ"を読んでる時は、“すばる兄”は"探偵"なんだね!」
「そうそう!“探偵さん”だね!そんな風に読んでみると、考えるのが楽しくなって…あっという間に読めちゃうかも。」
「なんかワクワクしてきた!明日からやってみるー!ありがとう!“みやびお姉ちゃん”。」
「どういたしまして、響くん。また、この方法どうだったか教えてね!本読み、いっぱいできるようになったら…たくさんお話しようね!」
「うん!」
響は本当に嬉しそうだった。
「“お姉ちゃん”は?…どんなの読むの?…あと。“お姉ちゃん”、食べてる?さっきから、僕と花純に話してばっかりだよ。」
「うーん。たくさん読むけど、“お兄ちゃん”と一緒かな。"推理するやつ"。……少しずつ食べてるから大丈夫だよ。この後【大事なお話】するから、それ終わるまでは、お腹いっぱい食べられないの。心配してくれてありがとう。」
…お、そうなのか?
作家で誰が好きなんだろうな…タイミングがあれば聞いてみようか。
俺も気になってはいたが、そういうことか…。
緊張で喉を通らないのか、別の理由か…何だろうな。
「そうなんだ!じゃあ、“すばる兄”とたくさん話せばいいじゃん!……ホントに大丈夫?」
響に「そうだね、“お兄ちゃん”ともお話してみるね。……うん。大丈夫だよ、ありがとう。」と姫野さんは笑い、そのあと俺にも微笑んだ。
響、お前なぁ…。
「俺とたくさん話せばいい。」は余計だよ。
「パーパー!“すばにぃ”とピアノひいてー!」
ジュースを飲み終わると同時に、花純の駄々をこねる声が聞こえてくる。
あえて言う必要がないから黙ってたけど…バレたな。
そして、そんな花純の言葉を聞き姫野さんは驚きで固まっていて、あとのメンバーからは「は?昴、お前。ピアノ弾けんの!?」とか「課長、カッコよすぎます!」とか…いろいろ言われた。
そうか。“鳴海先輩”にも言ってなかったな…。
「ダメだよ、花純。ジュース飲んだら、パパとお兄ちゃんとお家に帰る約束だったよね?」
「やーだ。ピアノ!“すばにぃ”とピアノひいてー!」
「花純、ホントにパパと“すばにぃ”がピアノ弾いたら、ちゃんとお家に帰るって"お約束"できるか?」
俺は花純の前にしゃがんで、彼女に言い聞かせる。
花純が「うん!」と返事している横で姉さんは「もう、花純を甘やかさないでよ。」とちょっと小言を零している。
そんな様子を見て「まぁまぁ、渚。」と姉さんを宥めている奏士義兄さんも、相当姉さんを甘やかしてると思うぞ?気づいてるか?
「花純、何弾いてほしいの?…"保育園で歌ってるやつ"?」
「ちがうの!ママがすきなやつか、パパがすきなやつ。」
そして義兄さんは、花純のリクエストを解読するべく、本人にちょっと歌わせていた。
さすがに俺には分からなかったが、何度かそれを繰り返しているうちに義兄さんには分かったようで「あー。」と納得の声を上げた後、俺にこう告げる。
「昴くん。【5分ぐらいの休憩】つもりで弾こうか。僕の好きな"あの曲"を…。」
ジャズ界で【5分ぐらいの休憩】と言ったら… "あの曲"だな。
俺と義兄さんが準備をしていると、「あっ。さすがは雅ちゃん。その顔は、もう何弾くか分かってるって感じね。ジャズ好きなだけあるわ!」なんて言う姉さんの声が聞こえてくる。
そして中瀬さんがBGMを止めに行き、戻ってきたのを見計らって義兄さんは拍のカウントを取った。
「1,2,3,4!」
義兄さんのピアノで奏でるベース音に合わせて、俺もあの【特徴あるメロディ】を乗せていく。
その際、一つの椅子に2人で座ったのだが…これはある意味即興で連弾する時の醍醐味と言える。
「わぁ……!課長、白石さん……カッコイイ、素敵。」
姫野さん。"もう言葉が出てこない"って感じなのか?
まさか、そんなに感動してもらえるとは思ってなかったよ。
「奏士さんが弾けるのは当たり前だけど、まさか本条さんまで弾けるなんてね…。さすがは“ジャズ好きのなぎちゃんの弟さん”だな。」
中瀬さん、俺が弾けるのは【ジャズの定番】だけですよ。
音大出てるわけでもないし、ピアノをまともに触るようになったのはジャズにハマった高校時代からだったし……。