男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「〔美島運送〕は全国展開してる最大手の企業だけど、〔美國家具〕は家具屋だしね。ホテルとかに比べたら、事業拡大は難しい。……関東ではそこそこ知られてるけど、全国区と言えるほどの知名度は無い。〔WEST GARDEN HOTEL〕は、知名度と店舗数は全国区だけど…僕個人的には"あのサービス内容なら他のホテルに泊まりたい。"って思う。あれは、"まだ【一流のホテル】とは呼べないよなー。"とは思ったよ。」
「えっ、泊まったことあるんですか?」
「あるよ、津田さん。学会とか行く時に2回ぐらい使ったな…。まぁ、でも。この話聞いちゃったからには、もう泊まらないけどね。……家具屋とホテルだし、〔OQF〕のインテリアは置きたいんじゃないかな。【一流のブランド品】置くと話題にもしやすいし、映えるからね。……味方につけるならいいけど、敵にしたらダメなところに喧嘩売ってるねー。バカだなー。」
はははは。中瀬さん、見た感じは笑い飛ばしてるけど…内心は絶対キレてるな。目が笑ってない。
最初から思ってたけど、長く付き合えそうだ。
「ふふふふふっ。まさか、中瀬先生がそこまで怒って下さるなんて思ってませんでした。ありがとうございます、なんかちょっと気分良いですね!」
はは、姫野さんも気分爽快って感じだな。いい顔だ。
「まぁ。安心して下さい、姫野さん。“あの人たち”は証拠が揃ったら、間違いなく解雇になるようなことを他にもやってますから…逃げられないです。」
出たよ、“鳴海先輩”の【ダークな部分を隠す眩しい笑顔】。
この人と…この人の親族と姫野夫妻は、本当に【キレ者】だから敵に回す方がバカを見る。
「…ということは、もう手は打ってるんですね。」
「はい、もちろん。……姫野さん。ドレスが切り刻まれた時や背中を打ちつけられた時の患部の写真とかは?」
中瀬さんからの問いに答えた後、その流れで俺も姫野さんに問い掛ける。
「打身の患部の写真なら、うちの病院にあるわよ。必要ならX線の写真も出してあげられるわ。」
「白石先生に、気持ち整理するための手段として…日記のようなものを付けるように勧められているので、何かあれば書き留めるようにしています。」
そう言って…彼女が自身のスマホを開き俺に見せてくれたのは、一連の【嫌がらせ】の件を事細かに書いた記録だった。
これを紙面に残したものを、自宅でもしっかり保管しているという。
「ちなみに。それの清書版は病院の私のデスクとカルテでしっかり保存してるわ。最悪は【出るところには出る】よ。」
「さすが、“なぎちゃん”と姫野さんに抜かりなし!…だね。」
「ありがとうございます。姫野さん、渚さん。証拠となるものがあるのは大きい。そこまで事態が悪化しないのが一番ですが、法的措置にも持っていけそうですね。…父は日頃から『身から出た錆を見て見ぬふりはするな。』と言いますから。もちろん、信用を一度は落としますが…僕たち社員には信頼を回復する【技術】があると、社長には確信があるようです。」
さすが社長だな。
「社長…素敵。」
「…ねー。素敵よね。」
「さすが社長ですね。」
女性陣3人はうっとりとした表情をしていた。
3人からそんな一言を聞いた“先輩”は、「社長…父さんに伝えておきますね。」と、はにかんで笑った。
ある意味で、この潔さが…我が社の魅力であり、『内定を貰いたい企業ランキング』の上位に…毎年入る所以なのかもしれない。
「良い会社ですね…。」
そう言って中瀬さんも、“先輩”に負けず劣らず【穏やかで綺麗な笑み】を浮かべた。
世の女性たちの言葉を借りるなら、これを【美しく笑う】や【見惚れる笑み】と表現するのだろうと思った。
その後は、俺たちが最も知っておかなければならない【姫野さんの疾患に対する対処法】の話題へ――。
「それでは過呼吸の対処法から。まずは胸に手をあてて、ゆっくりと浅い呼吸を行うよう促して下さい。次に息を吸ったあとに口を閉じて、1~2秒息を止めるよう促します。そしたら、吸い込んだ息を10秒かけて吐くよう促して下さい。…ある意味。救急車を呼ぶより、姫野さんが安心して呼吸を整えられるよう声を掛けることの方が大切です。もちろん、不安だったら呼んで下さい。でも、過呼吸で命を落とすことはありません。周りの方も落ち着いて対応して下さい。」
姫野さんの主治医である“白石ドクター”は、しっかりと応急処置のノウハウを伝授してくれる。
「あと。姫野さんが何かを『嫌だ。』とか『怖い。』と言って拒否した時…『助けて。』とSOSを出した時は、"やっとの思いで出したんだ"ぐらいに思って下さい。彼女は普段"頑張り屋"な印象だと思います。そんな方が出す【SOS】は本気です。決して軽視しないで下さい。もしも、【拒否したい状況・人】と何かをしなければならないことがあるなら【目的】や【理由】を明確に伝えてあげて下さい。」
姉さんの話を要約すると――。
もし。姫野さんが拒否したい人や状況の中で業務をさせるのであれば…疾患持ちの本人にとっては、まずその状況下に置かれること自体が苦痛であるということを周囲の人間や管理職の俺たちは認識しておかなければならないということ――。
「気分が悪くなったら退出していい。」とか「途中まで頑張ったから他の人と交代してもらおう。」とか提案するなどして【逃げ道】を用意してやることも大切だということ――。
その【逃げ道】があることで、実際には安心でき業務終了までやり遂げることができる…そんなケースが一番多いということ――。
それが終わった後は、少なくとも5分のクールダウン……そして、1日の業務終了後には可能なら上司がその事柄について1対1で振り返る時間を作ることと、本人のプラス感情・マイナス感情を傾聴するということ――。
こんなサポートが必要なのだという――。
そして、これはあくまで現段階でのサポートの仕方だという。
次に、本人が今より自分に自信が持てるようになり、自身にとって良い人間関係を構築し始めたら…自己主張をしていけるように意見を伝える術を身につけていけるようにサポートしていければベストという話だった。
こんな話を聞いた直後に姫野さんから話題に挙げられたのは〔営業1課〕の要注意人物…芹沢と福原の件だった。
「鳴海部長、本条課長。とても、言いにくいんですが…お耳に入れておいていただきたいことがあります。」
「うん?どうしました?」
「…ん?どうした?」
「えっと。あの…。"Eチーム"の芹沢 花恋さんと、福原 柑奈さん……なんか、危険な感じがします。怖いです。おそらく、芹沢さんは本条課長に好意を寄せてて…。私が〔営業〕では“新人”の扱いで、課長や観月くんにお世話になってるじゃないですか。……よく思ってないんじゃないかと…。具体的に何か…嫌がらせされたわけじゃないですけど…。よく睨まれるんです。これから何かありそうで怖くて……。」
「フッ…。姫野さん、やっぱりあなたは勘が鋭いようだ。俺と今日のことを決めた時みたいに、その勘は信じていい。」
「フフッ、さすがですね。人をよく見てる。……確かに、芹沢さんと福原さんは〔営業〕のトラブルメーカーですし、昴に気があるのも周知の事実です。……本人は大迷惑してますけど。」
本当だぜ、大迷惑だよ。鬱陶しい。
「えっ、泊まったことあるんですか?」
「あるよ、津田さん。学会とか行く時に2回ぐらい使ったな…。まぁ、でも。この話聞いちゃったからには、もう泊まらないけどね。……家具屋とホテルだし、〔OQF〕のインテリアは置きたいんじゃないかな。【一流のブランド品】置くと話題にもしやすいし、映えるからね。……味方につけるならいいけど、敵にしたらダメなところに喧嘩売ってるねー。バカだなー。」
はははは。中瀬さん、見た感じは笑い飛ばしてるけど…内心は絶対キレてるな。目が笑ってない。
最初から思ってたけど、長く付き合えそうだ。
「ふふふふふっ。まさか、中瀬先生がそこまで怒って下さるなんて思ってませんでした。ありがとうございます、なんかちょっと気分良いですね!」
はは、姫野さんも気分爽快って感じだな。いい顔だ。
「まぁ。安心して下さい、姫野さん。“あの人たち”は証拠が揃ったら、間違いなく解雇になるようなことを他にもやってますから…逃げられないです。」
出たよ、“鳴海先輩”の【ダークな部分を隠す眩しい笑顔】。
この人と…この人の親族と姫野夫妻は、本当に【キレ者】だから敵に回す方がバカを見る。
「…ということは、もう手は打ってるんですね。」
「はい、もちろん。……姫野さん。ドレスが切り刻まれた時や背中を打ちつけられた時の患部の写真とかは?」
中瀬さんからの問いに答えた後、その流れで俺も姫野さんに問い掛ける。
「打身の患部の写真なら、うちの病院にあるわよ。必要ならX線の写真も出してあげられるわ。」
「白石先生に、気持ち整理するための手段として…日記のようなものを付けるように勧められているので、何かあれば書き留めるようにしています。」
そう言って…彼女が自身のスマホを開き俺に見せてくれたのは、一連の【嫌がらせ】の件を事細かに書いた記録だった。
これを紙面に残したものを、自宅でもしっかり保管しているという。
「ちなみに。それの清書版は病院の私のデスクとカルテでしっかり保存してるわ。最悪は【出るところには出る】よ。」
「さすが、“なぎちゃん”と姫野さんに抜かりなし!…だね。」
「ありがとうございます。姫野さん、渚さん。証拠となるものがあるのは大きい。そこまで事態が悪化しないのが一番ですが、法的措置にも持っていけそうですね。…父は日頃から『身から出た錆を見て見ぬふりはするな。』と言いますから。もちろん、信用を一度は落としますが…僕たち社員には信頼を回復する【技術】があると、社長には確信があるようです。」
さすが社長だな。
「社長…素敵。」
「…ねー。素敵よね。」
「さすが社長ですね。」
女性陣3人はうっとりとした表情をしていた。
3人からそんな一言を聞いた“先輩”は、「社長…父さんに伝えておきますね。」と、はにかんで笑った。
ある意味で、この潔さが…我が社の魅力であり、『内定を貰いたい企業ランキング』の上位に…毎年入る所以なのかもしれない。
「良い会社ですね…。」
そう言って中瀬さんも、“先輩”に負けず劣らず【穏やかで綺麗な笑み】を浮かべた。
世の女性たちの言葉を借りるなら、これを【美しく笑う】や【見惚れる笑み】と表現するのだろうと思った。
その後は、俺たちが最も知っておかなければならない【姫野さんの疾患に対する対処法】の話題へ――。
「それでは過呼吸の対処法から。まずは胸に手をあてて、ゆっくりと浅い呼吸を行うよう促して下さい。次に息を吸ったあとに口を閉じて、1~2秒息を止めるよう促します。そしたら、吸い込んだ息を10秒かけて吐くよう促して下さい。…ある意味。救急車を呼ぶより、姫野さんが安心して呼吸を整えられるよう声を掛けることの方が大切です。もちろん、不安だったら呼んで下さい。でも、過呼吸で命を落とすことはありません。周りの方も落ち着いて対応して下さい。」
姫野さんの主治医である“白石ドクター”は、しっかりと応急処置のノウハウを伝授してくれる。
「あと。姫野さんが何かを『嫌だ。』とか『怖い。』と言って拒否した時…『助けて。』とSOSを出した時は、"やっとの思いで出したんだ"ぐらいに思って下さい。彼女は普段"頑張り屋"な印象だと思います。そんな方が出す【SOS】は本気です。決して軽視しないで下さい。もしも、【拒否したい状況・人】と何かをしなければならないことがあるなら【目的】や【理由】を明確に伝えてあげて下さい。」
姉さんの話を要約すると――。
もし。姫野さんが拒否したい人や状況の中で業務をさせるのであれば…疾患持ちの本人にとっては、まずその状況下に置かれること自体が苦痛であるということを周囲の人間や管理職の俺たちは認識しておかなければならないということ――。
「気分が悪くなったら退出していい。」とか「途中まで頑張ったから他の人と交代してもらおう。」とか提案するなどして【逃げ道】を用意してやることも大切だということ――。
その【逃げ道】があることで、実際には安心でき業務終了までやり遂げることができる…そんなケースが一番多いということ――。
それが終わった後は、少なくとも5分のクールダウン……そして、1日の業務終了後には可能なら上司がその事柄について1対1で振り返る時間を作ることと、本人のプラス感情・マイナス感情を傾聴するということ――。
こんなサポートが必要なのだという――。
そして、これはあくまで現段階でのサポートの仕方だという。
次に、本人が今より自分に自信が持てるようになり、自身にとって良い人間関係を構築し始めたら…自己主張をしていけるように意見を伝える術を身につけていけるようにサポートしていければベストという話だった。
こんな話を聞いた直後に姫野さんから話題に挙げられたのは〔営業1課〕の要注意人物…芹沢と福原の件だった。
「鳴海部長、本条課長。とても、言いにくいんですが…お耳に入れておいていただきたいことがあります。」
「うん?どうしました?」
「…ん?どうした?」
「えっと。あの…。"Eチーム"の芹沢 花恋さんと、福原 柑奈さん……なんか、危険な感じがします。怖いです。おそらく、芹沢さんは本条課長に好意を寄せてて…。私が〔営業〕では“新人”の扱いで、課長や観月くんにお世話になってるじゃないですか。……よく思ってないんじゃないかと…。具体的に何か…嫌がらせされたわけじゃないですけど…。よく睨まれるんです。これから何かありそうで怖くて……。」
「フッ…。姫野さん、やっぱりあなたは勘が鋭いようだ。俺と今日のことを決めた時みたいに、その勘は信じていい。」
「フフッ、さすがですね。人をよく見てる。……確かに、芹沢さんと福原さんは〔営業〕のトラブルメーカーですし、昴に気があるのも周知の事実です。……本人は大迷惑してますけど。」
本当だぜ、大迷惑だよ。鬱陶しい。