男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「いえ、ヘルシーで助かります。中瀬さん。」
「そうだよね、この時間からは…女性は気にするでしょ。」
「はい。…ところで、先ほどの質問ですが。本屋さんにフラッと行くのが好きなんですけど、それこそ“九条先生”の新刊買いに行ったら新刊のコーナーにあったんです。あらすじ読んだら面白そうだなって思ったし、"当店のミステリー好きの店員爆推し作家です!!"って宣伝文句まで書かれてたら気になりませんか?」
【爆推し】って表現は、確かにインパクトあるよな。
「【イチオシ】じゃなく【爆推し】か。それは確かに気になるし、目を引く良い宣伝文句だな。しかも、ちゃんと成功してるしな。」
「そうですよね。それにしっかり乗せられた人間が…確実に、ここに1人は居ますし…。」
「【爆推し】の表現は…作家への愛と、宣伝のセンス感じるね!僕も、その状況なら手に取っちゃうかな…。」
「ちょっと…3人で盛り上がりすぎじゃない?」
少し拗ねた口調でそう言うのは、左隣に座る姉さんだった。
「何、“なぎちゃん”…。誰も相手にしてくれないから妬いたの?」
「律、バカじゃないの!?……あんたたち2人で雅ちゃん独占してたら、立花さんとか蛍くんとか観月さんたちだって喋れないでしょ!親睦を深める目的もあったんじゃないの?」
「…それはそうだ。」
「…でしょ?」
俺としたことが…。
久しぶりに“ミステリー好き”に出会って、熱を入れすぎた。
「姫野さん、ミステリー以外は読まないの?」
「そんなことないですよ、立花さん。最近流行りの洋書原作の映画化とかあるじゃないですか。あれの"翻訳版"じゃなくて、"原作版"読んだり…コラムニストさんの書いた雑誌のコラムとか読んだりしますし、“春原 葉子先生”も大好きな作家さんなので恋愛小説とかも普通に読みますよ。」
それを聞いて、立花さんと姉さんが少し興奮気味の反応を示した。しかも立花さんに至っては、【今日一番の反応】だ。
「“春原先生”!!」
「やだ、雅ちゃん…早く言ってよ。立花さんも好きなのね。私も大ファンなの。」
「白石先生、そうなんですね!」
「“白石さん”か“渚さん”で良いわよ?立花さん。」
「…では、“白石さん”とお呼びします。……また姫野さんとの共通点が見つかって嬉しいわ。」
そう反応した立花さんは、勢いそのままにカウンターまでやってきて、俺と反対側の姉さんの隣に座った。
春原 葉子さんって、確か…。
“恋愛小説の女王”って言われてる人じゃなかったか?
姉さんから、何かの流れで聞いた話だと…『【夜のシーン】無しの純愛もの』から『【夜のシーン】有りの大人な恋愛もの』まであるって聞いた記憶があるな…。
「あっ、そうだ。“春原先生”だ、やっと思い出した!今度読んでみるね、姫ちゃん。」
姉さんより2つ向こうに座る鈴原から、そんな声が飛んできた。
「柚ちゃん、ホントに?ちょっと刺激が強い作品もあるから気をつけて…というか、私が柚ちゃんでも読めるものをピックアップすればいっか。」
「もぉ〜。姫ちゃんまでヒドーイ!!」
姫野さん本人すら心配するぐらいだ、鈴原には相当早いのかもしれないな。
姫野さんと鈴原の会話を聞いていた“先輩”は、微笑ましそうにクスクスと笑っていた。
「すげぇ盛り上がってますね、俺ら…入れない感じ。それにしても…。"洋書の原作版"といい、読んでるジャンルとか量といい…“雅姉さん”。相変わらず、すごすぎません?」
そう言いながらも、会話の切れ目をみてタイミング良く入ってきた観月。
「そうかなぁ…観月くん。私にとっては日常的なことだから『すごい。』って言われても分からないのよね。あとは語学忘れないための勉強も兼ねてるけどね。」
「いや、もう…。その考えになるのがすごいんですよ!」
なんで数メートル距離空けてんだよ。…ったく、しょーがねぇな。
「何だ、観月。その微妙な距離感は。姫野さんと話したいなら、堂々と来たらいいだろう。…ん。ここ替わるよ。…喜べ、【両手に花】だ。」
俺は観月にそう声を掛けて、座っていたスツールを降りた。
「えっ、課長はどこに?…えぇっ!?“雅姉さん”と“課長のお姉様”の隣ですか!?俺が!?緊張しますね…。」
「俺か?俺は"あっち"。反対側の姫野さんの隣に移動するだけだよ。」
「えぇっ…。課長が壁際に座るなんて、なんか申し訳ないですよ。」
「良いんだよ、俺はもともと端の席好きなんだから。気にするな。」
俺と観月がそんなやり取りをしている中、“先輩”と鈴原は蛍と柊が飲んでいるテーブル席へ静かに移動していく。
「ヒュー。本条さん、予想より遥かに壁際の席似合うね。さすが色男。…車じゃなかったら、バーボンとか出したんだけどね。」
「本条課長とバーボン…【絵】になりすぎますね。」
そう言い出した中瀬さんと姫野さんに加えて、立花さんまでもが「課長がバーボン片手に静かに飲んでたら…ちょっと【絵】になりすぎて近寄りがたいけど、【声掛けてみたい対象】にはなると思う…女なら。」なんて言い始める。
それは買い被りすぎだ。
やめてくれって、3人とも…。
「やめて下さいよ、中瀬さん。…姫野さんと立花さんまで。……また来ますから、次回はぜひ【その時のおすすめ】を…マスター。」
「それじゃ。“姉さん”は、スポーツはやらないんですか?」
そう言いながら、桜葉もテーブル席からカウンターへ移動してきたので姉さんと立花さんが入口に近い方へ席を移動し、観月の隣に桜葉が座れるようにスペースを空ける。
「スポーツは人並みよ、桜葉くん。苦手じゃないけど、すごく得意なわけでもなかった。見るのは見たりもするけど。…その代わり、園芸部や吹奏楽部には顧問の先生が休みの時とか、部員の手が足りないとよく助っ人に行ってたかな。一応ピアノ弾けるし、お花眺めるの好きだからガーデニングとかやりたいのもあって。……私自身、高校の頃は〔文学部〕…大学では〔文学・語学サークル〕だったんだけどね。」
文学系の部活やサークルか…。読書好きがひたすら小説なんかを読んでたんだろうか?
「文学部とか、文学・語学サークルなんてあったんですね。どんなことやってたか聞いても?」
「もちろんよ、桜葉くん。そうね…。読書って好きな人は一日中でも読んでるぐらい好きだけど、苦手な人って本開いてすぐ眠くなっちゃう人とか居るじゃない?…そういう人たちの苦手意識を無くすために作品の魅力を伝えたり、"飽きずに読むコツ"を伝える掲示物を作ったりしてた。」
「なるほど。作品の魅力とか教えてもらえると、"見てみようかな"って思う人も一定数は居ますもんね。」
桜葉は適度に相槌を打ちながら、姫野さんの話を興味津々な様子で聞いていた。
「そうそう。…でも。言うだけだと、みんなまたそこから進展しないから『実際に私が読むから想像して聞いてて下さい。』って【読み聞かせ】するみたいに聞いててもらうの。…興味を持ってくれた人には、さらに作品の感想聞いたり…"自分なりの作品の解釈"や読解を聞かせてもらったり…。とにかく興味を持ってもらえるように啓発活動してたかな。あと高校の頃だと、夏休みとかの長期休暇に図書館で小学生を相手に読み聞かせのボランティア活動してたかな。」
「そうだよね、この時間からは…女性は気にするでしょ。」
「はい。…ところで、先ほどの質問ですが。本屋さんにフラッと行くのが好きなんですけど、それこそ“九条先生”の新刊買いに行ったら新刊のコーナーにあったんです。あらすじ読んだら面白そうだなって思ったし、"当店のミステリー好きの店員爆推し作家です!!"って宣伝文句まで書かれてたら気になりませんか?」
【爆推し】って表現は、確かにインパクトあるよな。
「【イチオシ】じゃなく【爆推し】か。それは確かに気になるし、目を引く良い宣伝文句だな。しかも、ちゃんと成功してるしな。」
「そうですよね。それにしっかり乗せられた人間が…確実に、ここに1人は居ますし…。」
「【爆推し】の表現は…作家への愛と、宣伝のセンス感じるね!僕も、その状況なら手に取っちゃうかな…。」
「ちょっと…3人で盛り上がりすぎじゃない?」
少し拗ねた口調でそう言うのは、左隣に座る姉さんだった。
「何、“なぎちゃん”…。誰も相手にしてくれないから妬いたの?」
「律、バカじゃないの!?……あんたたち2人で雅ちゃん独占してたら、立花さんとか蛍くんとか観月さんたちだって喋れないでしょ!親睦を深める目的もあったんじゃないの?」
「…それはそうだ。」
「…でしょ?」
俺としたことが…。
久しぶりに“ミステリー好き”に出会って、熱を入れすぎた。
「姫野さん、ミステリー以外は読まないの?」
「そんなことないですよ、立花さん。最近流行りの洋書原作の映画化とかあるじゃないですか。あれの"翻訳版"じゃなくて、"原作版"読んだり…コラムニストさんの書いた雑誌のコラムとか読んだりしますし、“春原 葉子先生”も大好きな作家さんなので恋愛小説とかも普通に読みますよ。」
それを聞いて、立花さんと姉さんが少し興奮気味の反応を示した。しかも立花さんに至っては、【今日一番の反応】だ。
「“春原先生”!!」
「やだ、雅ちゃん…早く言ってよ。立花さんも好きなのね。私も大ファンなの。」
「白石先生、そうなんですね!」
「“白石さん”か“渚さん”で良いわよ?立花さん。」
「…では、“白石さん”とお呼びします。……また姫野さんとの共通点が見つかって嬉しいわ。」
そう反応した立花さんは、勢いそのままにカウンターまでやってきて、俺と反対側の姉さんの隣に座った。
春原 葉子さんって、確か…。
“恋愛小説の女王”って言われてる人じゃなかったか?
姉さんから、何かの流れで聞いた話だと…『【夜のシーン】無しの純愛もの』から『【夜のシーン】有りの大人な恋愛もの』まであるって聞いた記憶があるな…。
「あっ、そうだ。“春原先生”だ、やっと思い出した!今度読んでみるね、姫ちゃん。」
姉さんより2つ向こうに座る鈴原から、そんな声が飛んできた。
「柚ちゃん、ホントに?ちょっと刺激が強い作品もあるから気をつけて…というか、私が柚ちゃんでも読めるものをピックアップすればいっか。」
「もぉ〜。姫ちゃんまでヒドーイ!!」
姫野さん本人すら心配するぐらいだ、鈴原には相当早いのかもしれないな。
姫野さんと鈴原の会話を聞いていた“先輩”は、微笑ましそうにクスクスと笑っていた。
「すげぇ盛り上がってますね、俺ら…入れない感じ。それにしても…。"洋書の原作版"といい、読んでるジャンルとか量といい…“雅姉さん”。相変わらず、すごすぎません?」
そう言いながらも、会話の切れ目をみてタイミング良く入ってきた観月。
「そうかなぁ…観月くん。私にとっては日常的なことだから『すごい。』って言われても分からないのよね。あとは語学忘れないための勉強も兼ねてるけどね。」
「いや、もう…。その考えになるのがすごいんですよ!」
なんで数メートル距離空けてんだよ。…ったく、しょーがねぇな。
「何だ、観月。その微妙な距離感は。姫野さんと話したいなら、堂々と来たらいいだろう。…ん。ここ替わるよ。…喜べ、【両手に花】だ。」
俺は観月にそう声を掛けて、座っていたスツールを降りた。
「えっ、課長はどこに?…えぇっ!?“雅姉さん”と“課長のお姉様”の隣ですか!?俺が!?緊張しますね…。」
「俺か?俺は"あっち"。反対側の姫野さんの隣に移動するだけだよ。」
「えぇっ…。課長が壁際に座るなんて、なんか申し訳ないですよ。」
「良いんだよ、俺はもともと端の席好きなんだから。気にするな。」
俺と観月がそんなやり取りをしている中、“先輩”と鈴原は蛍と柊が飲んでいるテーブル席へ静かに移動していく。
「ヒュー。本条さん、予想より遥かに壁際の席似合うね。さすが色男。…車じゃなかったら、バーボンとか出したんだけどね。」
「本条課長とバーボン…【絵】になりすぎますね。」
そう言い出した中瀬さんと姫野さんに加えて、立花さんまでもが「課長がバーボン片手に静かに飲んでたら…ちょっと【絵】になりすぎて近寄りがたいけど、【声掛けてみたい対象】にはなると思う…女なら。」なんて言い始める。
それは買い被りすぎだ。
やめてくれって、3人とも…。
「やめて下さいよ、中瀬さん。…姫野さんと立花さんまで。……また来ますから、次回はぜひ【その時のおすすめ】を…マスター。」
「それじゃ。“姉さん”は、スポーツはやらないんですか?」
そう言いながら、桜葉もテーブル席からカウンターへ移動してきたので姉さんと立花さんが入口に近い方へ席を移動し、観月の隣に桜葉が座れるようにスペースを空ける。
「スポーツは人並みよ、桜葉くん。苦手じゃないけど、すごく得意なわけでもなかった。見るのは見たりもするけど。…その代わり、園芸部や吹奏楽部には顧問の先生が休みの時とか、部員の手が足りないとよく助っ人に行ってたかな。一応ピアノ弾けるし、お花眺めるの好きだからガーデニングとかやりたいのもあって。……私自身、高校の頃は〔文学部〕…大学では〔文学・語学サークル〕だったんだけどね。」
文学系の部活やサークルか…。読書好きがひたすら小説なんかを読んでたんだろうか?
「文学部とか、文学・語学サークルなんてあったんですね。どんなことやってたか聞いても?」
「もちろんよ、桜葉くん。そうね…。読書って好きな人は一日中でも読んでるぐらい好きだけど、苦手な人って本開いてすぐ眠くなっちゃう人とか居るじゃない?…そういう人たちの苦手意識を無くすために作品の魅力を伝えたり、"飽きずに読むコツ"を伝える掲示物を作ったりしてた。」
「なるほど。作品の魅力とか教えてもらえると、"見てみようかな"って思う人も一定数は居ますもんね。」
桜葉は適度に相槌を打ちながら、姫野さんの話を興味津々な様子で聞いていた。
「そうそう。…でも。言うだけだと、みんなまたそこから進展しないから『実際に私が読むから想像して聞いてて下さい。』って【読み聞かせ】するみたいに聞いててもらうの。…興味を持ってくれた人には、さらに作品の感想聞いたり…"自分なりの作品の解釈"や読解を聞かせてもらったり…。とにかく興味を持ってもらえるように啓発活動してたかな。あと高校の頃だと、夏休みとかの長期休暇に図書館で小学生を相手に読み聞かせのボランティア活動してたかな。」