男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「私の好きな"トマトサンド"と"玉子サンド"!さすがお姉ちゃん!しかも、ちょっとポテトも揚げてくれてるし…。」
「姫野さん。すごく手際が良いし、盛り付けもキレイで、しかも可愛い!感心しちゃう、さすがの美的センス!」
「ありがとうございます、立花さん。でも褒めすぎですよ。……さてと、柚ちゃん。一回お昼休憩にしよ。ずっと生地作るのに手使ってたから疲れたでしょ?」
「わぁ!毎回思うけど、姫ちゃんが盛り付けすると…ホントに可愛いよね!しかも早いし。食べたい!食べたい!」
ダイニングテーブルにサンドイッチのお皿を乗せるスペースを何とか作って、その周りを4人で囲んだ。
全員で手を合わせて、「頂きます。」と言い…食べ始める。
「美味しいっ!」
「お口に合って良かったです、立花さん。」
「普通のサンドイッチとホットサンド、両方あるなんて粋よね…手間かかるのに。」
「この一工夫で喜んでくれる人が居るなら…それは私としても嬉しいですし、手間を掛けた甲斐があります。」
「あー。"こういうところ"か…。うちの部長や課長、そして重役やその秘書にさえ"気に入られる"のは…。【自分本位じゃなく人のために動くこと】ができて、【掛けるべき手間をちゃんと掛けられること】…。これがどれだけ重要なことかを、《上》やあなたは知ってる。結果的に【お客様の喜び】や【仕事の効率を左右すること】を理解して、そこをちゃんと押さえているからこそ…部長や課長も含めて《上》があなたと仕事したいのね、きっと。」
「そこまで言ったら、大袈裟な気もしますけど…。」
立花さんの言葉に、ちょっとアタフタしてしまう。
「何言ってるのよー。基本的に『自分でやる方が早い!』が口癖の本条課長があなたに仕事振ってるんだから、それがその証拠よ。……あなたが〔営業〕に来てから、本条課長の機嫌が良い日が多くなってるもの。」
締めくくりに、ウィンクまで返される。
そうだとしたら。本当にどれだけ仕事がやりにくかったのだろうか、“彼”は。
「えっ、そうなんですか?」
「あ、でも。姫野さんには【ずっと優しい】か…。だから"ピン!"っときてなくても不思議じゃないわね。まぁ、あなた媚びないし…素直で可愛いからね。課長…癒されてるんだと思うわよ。」
「そんなこと…。」
「…あるよ、姫ちゃん。本条課長、機嫌が良いというか…『仕事捗る、姫野さんが来てから。』って本当に鳴海部長に言ってるの…私、聞いてるから。」
笑顔の柚ちゃんに続いて、唯も食い付いてくる。
「さすがお姉ちゃん。やっぱりバランス取るの…上手いんだね、相変わらず。……柚奈さんからも立花さんからも、“本条課長さん”の話が聞けて良かったです。安心したー!」
「唯さん、安心して。“あなたのお姉さん”、相当気に入られてるから。それに姫野さんも、鳴海部長と本条課長が触れるのは大丈夫みたいだから…。この間の金曜日の【話し合い】の時も、途中で何回か発作起こしてたけど…『触れて良いか?』って確認しながら、背中摩ってもらってたりしてたもんね。」
「えー!?それ本当ですか!?立花さん!…蕁麻疹出なかった!?」
「蕁麻疹は出るには出たけど、少し痒いぐらいで…すぐ引いたよ。」
「“課長さん”、優しいね…。よかったね、お姉ちゃん。」
シンプルな一言の中に、唯の気持ちがいくつも入ってる気がした。
ありがとう…唯。
そして昼食を終えた私たちは、お菓子作りを再開させた。
「…さぁ、柚ちゃん。お昼の前に型抜きした分、ひとまず焼いちゃおっか!」
「うん。…焦げずに焼けますように!」
そう言ってオーブンの前で手を合わせて祈ってる柚ちゃんは何とも可愛いらしい。
「ふふっ、きっと大丈夫。上手に仕上がるよ。…じゃあ、焼き上がるまでオーブン見ててね。……さて。私はその間に…自分のパウンドケーキの下準備。」
「ごめんね、姫ちゃん。自分が作る分…捗らないよね。」
「柚奈さん、大丈夫。お姉ちゃん超早いから!」
「そうそう。気にしないでね。」
そう言いながらも、私は手にハンドミキサーを握り…生地となる材料を混ぜ合わせていた。
「…ここでエスプレッソの粉入れて――。」
工程を確認しながら作業をしていると、柚ちゃんから「焼けたみたい。」とお声が掛かった。
「はーい!」と返事し、本人の傍に駆け寄りオーブンの中を覗けば――。
2つほど焦げてしまったものはあるけれど、それ以外はキレイに仕上がっていた。
「やったぁ!焦げてるの…今までで一番少ない!」
「すごーい。やっぱり鈴原さんは努力家だわ。」
「やったね、柚ちゃん!」
柚ちゃんと、ごく自然にハイタッチしてしまった。
「あ〜。そうだぁ、鳴海部長にクッキーの写真送らなきゃいけないんだった。なんか『クッキーできたら写真送ってよ。』って言われたんだった。やだな、焦げたり…形崩れたのもあるから。」
「やだな。」と言いながらも鳴海部長に律儀に写真を送る彼女は…乙女だと思う。
さて。柚ちゃんが写真撮ったり、2回目の型抜きしてる間に私も生地仕上げなくちゃ!
「…あぁっ!もぉ、私ったら何やってるんだろう…。間違えて、本条課長に送っちゃうなんて…バカっ!恥ずかしすぎるっ!」
「えっ、間違えて送っちゃったの?柚ちゃん。」
「うん。最近、仕事のことでちょっと連絡取ってて、鳴海部長のすぐ上に本条課長の"トーク"がある状態だったから…。」
「あぁ。なるほど…【あるある】よねー。ちなみに、課長の反応は?」
確かに【あるある】ネタよねー。
「普通に『“鳴海さん”に送るんだろう?』って、ゆるーく指摘してくれた。」
そこまで会話したタイミングで、なぜか唯が「そうだ。この雰囲気、写真に撮りませんか?」なんて言い出した。
「じゃあ、私が撮ってあげるから映りたい人は入って。」
「えー!お姉ちゃんは?」
「私はいいのよ。唯は私があまり写真に映りたくないの、知ってるくせに…。」
「お姉ちゃん、ホント写真の話は乗ってこないよね。つまんない。」
「はいはい、つまんなくていいわよ。…じゃあ撮るわよ?……はい、チーズ。」
「柚奈さん、その写真“課長さん”に送ったら…引かれますかね?」
唯、やめて…。
課長が困るようなことはしないでほしい…。
「引きはしないと思うけど…。いいのかな、姫ちゃん…。」
「"楽しそうだな"って普通に返ってきそうだけどね…。写真見ること自体は好きなんじゃないかな…。夏の【懇親会】と称してのバーベキューとか、秋の社員旅行とかの記録係…毎年、本条課長だから。送ってみようよ、面白そうだし…。」
面白そうって……。立花さん。
女子会の写真見せられて、課長が反応に困らなければいいけど…どうなのかな。
「あっ、返信来た!"楽しそうで何より。しっかりリフレッシュするといい。"だって。」
クスッ!文脈が課長らしい…。
――ヴッ、ヴッ!
あぁ、私のが鳴ったのね。
そして、“連絡をくれた相手”を確認した結果…私は呼吸するのを一瞬忘れてしまうぐらいの衝撃を受ける。
……えっ、嘘!?課長!?どうして…。
「えっ…!?」
「うん?どうかした?」
そんなつもりはなかったのだけれど…私の驚きは声に出てしまっていたらしく、立花さんに拾われてしまった。
「本条課長からメッセージが……。」
「えぇぇぇっ!?お姉ちゃん!それは【いろいろと楽しくなりそう】だね!」
そう言いながら、唯がわざとらしい含み笑いを私に向けてくる。
「姫野さん。すごく手際が良いし、盛り付けもキレイで、しかも可愛い!感心しちゃう、さすがの美的センス!」
「ありがとうございます、立花さん。でも褒めすぎですよ。……さてと、柚ちゃん。一回お昼休憩にしよ。ずっと生地作るのに手使ってたから疲れたでしょ?」
「わぁ!毎回思うけど、姫ちゃんが盛り付けすると…ホントに可愛いよね!しかも早いし。食べたい!食べたい!」
ダイニングテーブルにサンドイッチのお皿を乗せるスペースを何とか作って、その周りを4人で囲んだ。
全員で手を合わせて、「頂きます。」と言い…食べ始める。
「美味しいっ!」
「お口に合って良かったです、立花さん。」
「普通のサンドイッチとホットサンド、両方あるなんて粋よね…手間かかるのに。」
「この一工夫で喜んでくれる人が居るなら…それは私としても嬉しいですし、手間を掛けた甲斐があります。」
「あー。"こういうところ"か…。うちの部長や課長、そして重役やその秘書にさえ"気に入られる"のは…。【自分本位じゃなく人のために動くこと】ができて、【掛けるべき手間をちゃんと掛けられること】…。これがどれだけ重要なことかを、《上》やあなたは知ってる。結果的に【お客様の喜び】や【仕事の効率を左右すること】を理解して、そこをちゃんと押さえているからこそ…部長や課長も含めて《上》があなたと仕事したいのね、きっと。」
「そこまで言ったら、大袈裟な気もしますけど…。」
立花さんの言葉に、ちょっとアタフタしてしまう。
「何言ってるのよー。基本的に『自分でやる方が早い!』が口癖の本条課長があなたに仕事振ってるんだから、それがその証拠よ。……あなたが〔営業〕に来てから、本条課長の機嫌が良い日が多くなってるもの。」
締めくくりに、ウィンクまで返される。
そうだとしたら。本当にどれだけ仕事がやりにくかったのだろうか、“彼”は。
「えっ、そうなんですか?」
「あ、でも。姫野さんには【ずっと優しい】か…。だから"ピン!"っときてなくても不思議じゃないわね。まぁ、あなた媚びないし…素直で可愛いからね。課長…癒されてるんだと思うわよ。」
「そんなこと…。」
「…あるよ、姫ちゃん。本条課長、機嫌が良いというか…『仕事捗る、姫野さんが来てから。』って本当に鳴海部長に言ってるの…私、聞いてるから。」
笑顔の柚ちゃんに続いて、唯も食い付いてくる。
「さすがお姉ちゃん。やっぱりバランス取るの…上手いんだね、相変わらず。……柚奈さんからも立花さんからも、“本条課長さん”の話が聞けて良かったです。安心したー!」
「唯さん、安心して。“あなたのお姉さん”、相当気に入られてるから。それに姫野さんも、鳴海部長と本条課長が触れるのは大丈夫みたいだから…。この間の金曜日の【話し合い】の時も、途中で何回か発作起こしてたけど…『触れて良いか?』って確認しながら、背中摩ってもらってたりしてたもんね。」
「えー!?それ本当ですか!?立花さん!…蕁麻疹出なかった!?」
「蕁麻疹は出るには出たけど、少し痒いぐらいで…すぐ引いたよ。」
「“課長さん”、優しいね…。よかったね、お姉ちゃん。」
シンプルな一言の中に、唯の気持ちがいくつも入ってる気がした。
ありがとう…唯。
そして昼食を終えた私たちは、お菓子作りを再開させた。
「…さぁ、柚ちゃん。お昼の前に型抜きした分、ひとまず焼いちゃおっか!」
「うん。…焦げずに焼けますように!」
そう言ってオーブンの前で手を合わせて祈ってる柚ちゃんは何とも可愛いらしい。
「ふふっ、きっと大丈夫。上手に仕上がるよ。…じゃあ、焼き上がるまでオーブン見ててね。……さて。私はその間に…自分のパウンドケーキの下準備。」
「ごめんね、姫ちゃん。自分が作る分…捗らないよね。」
「柚奈さん、大丈夫。お姉ちゃん超早いから!」
「そうそう。気にしないでね。」
そう言いながらも、私は手にハンドミキサーを握り…生地となる材料を混ぜ合わせていた。
「…ここでエスプレッソの粉入れて――。」
工程を確認しながら作業をしていると、柚ちゃんから「焼けたみたい。」とお声が掛かった。
「はーい!」と返事し、本人の傍に駆け寄りオーブンの中を覗けば――。
2つほど焦げてしまったものはあるけれど、それ以外はキレイに仕上がっていた。
「やったぁ!焦げてるの…今までで一番少ない!」
「すごーい。やっぱり鈴原さんは努力家だわ。」
「やったね、柚ちゃん!」
柚ちゃんと、ごく自然にハイタッチしてしまった。
「あ〜。そうだぁ、鳴海部長にクッキーの写真送らなきゃいけないんだった。なんか『クッキーできたら写真送ってよ。』って言われたんだった。やだな、焦げたり…形崩れたのもあるから。」
「やだな。」と言いながらも鳴海部長に律儀に写真を送る彼女は…乙女だと思う。
さて。柚ちゃんが写真撮ったり、2回目の型抜きしてる間に私も生地仕上げなくちゃ!
「…あぁっ!もぉ、私ったら何やってるんだろう…。間違えて、本条課長に送っちゃうなんて…バカっ!恥ずかしすぎるっ!」
「えっ、間違えて送っちゃったの?柚ちゃん。」
「うん。最近、仕事のことでちょっと連絡取ってて、鳴海部長のすぐ上に本条課長の"トーク"がある状態だったから…。」
「あぁ。なるほど…【あるある】よねー。ちなみに、課長の反応は?」
確かに【あるある】ネタよねー。
「普通に『“鳴海さん”に送るんだろう?』って、ゆるーく指摘してくれた。」
そこまで会話したタイミングで、なぜか唯が「そうだ。この雰囲気、写真に撮りませんか?」なんて言い出した。
「じゃあ、私が撮ってあげるから映りたい人は入って。」
「えー!お姉ちゃんは?」
「私はいいのよ。唯は私があまり写真に映りたくないの、知ってるくせに…。」
「お姉ちゃん、ホント写真の話は乗ってこないよね。つまんない。」
「はいはい、つまんなくていいわよ。…じゃあ撮るわよ?……はい、チーズ。」
「柚奈さん、その写真“課長さん”に送ったら…引かれますかね?」
唯、やめて…。
課長が困るようなことはしないでほしい…。
「引きはしないと思うけど…。いいのかな、姫ちゃん…。」
「"楽しそうだな"って普通に返ってきそうだけどね…。写真見ること自体は好きなんじゃないかな…。夏の【懇親会】と称してのバーベキューとか、秋の社員旅行とかの記録係…毎年、本条課長だから。送ってみようよ、面白そうだし…。」
面白そうって……。立花さん。
女子会の写真見せられて、課長が反応に困らなければいいけど…どうなのかな。
「あっ、返信来た!"楽しそうで何より。しっかりリフレッシュするといい。"だって。」
クスッ!文脈が課長らしい…。
――ヴッ、ヴッ!
あぁ、私のが鳴ったのね。
そして、“連絡をくれた相手”を確認した結果…私は呼吸するのを一瞬忘れてしまうぐらいの衝撃を受ける。
……えっ、嘘!?課長!?どうして…。
「えっ…!?」
「うん?どうかした?」
そんなつもりはなかったのだけれど…私の驚きは声に出てしまっていたらしく、立花さんに拾われてしまった。
「本条課長からメッセージが……。」
「えぇぇぇっ!?お姉ちゃん!それは【いろいろと楽しくなりそう】だね!」
そう言いながら、唯がわざとらしい含み笑いを私に向けてくる。