男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
20th Data お礼のお菓子に"想い"を込めて…。 ◇雅 side◇
「あっ、姫野さん。おはよう、昨日はありがとう。あなたの手料理美味しかったし、楽しかったわ!」
午前7時45分――。
我が社のエントランスホールを潜り抜け〔開発営業部〕のフロアへ向かっていると、後ろから立花さんに声を掛けられた。
「立花さん、おはようございます。こちらこそ昨日はありがとうございました。楽しかったです。」
彼女が笑顔で挨拶してくれたので、私も同じように返す。
「早いですね。」
「うん。おそらく、【あなたと同じ理由】よ。みんなが来てからなんて渡せないもの。芹沢と福原に絡まれると厄介だし。」
渡すというのは、もちろん【昨日から準備しているお菓子】だ。
「…ですね。」
「…あっ!姫ちゃーん、立花さーん。おはようございまーす!」
「柚ちゃん(鈴原さん)、おはようございます!」
「早いね、【芹沢さん・福原さん対策】?」
「そうね。」
「私もー。物渡すとこなんて見られたら、しばらく〔部長室〕から出られないもん。」
みんな考えることは同じだったみたい。
「柚ちゃんを睨む態度とか、ホント許せないのよね。上司にあんな態度…。」
「ホント、早く〔営業〕から居なくなればいいのに…。役に立たない給料泥棒。」
「ふふっ。立花さんの【毒舌】聞くとスッキリするので、それで良しですよ…私は。」
「分かる!ホントそれよね、柚ちゃん。」
「もう!鈴原さんも姫野さんも、人が良すぎるわよ。怒っていいんだからね?」
代弁、ありがとうございます…立花さん。
「あ、そうだよ…姫ちゃんごめーん!誕生日プレゼント、忙しくて買いに行けてないんだけど…何がいい?」
「あ、そうじゃない。鈴原さんと折半するわ。」
昨日のパーティーでもう十分だけど…納得しないよね、2人とも。
「昨日のお祝いで十分ですけど…。」
「ダメ!」
ふふっ、そんな同時に言わなくても…。面白い。
「うーん。…あっ、バレッタとコサージュは欲しいかも…。まぁ、コサージュは今までより使う回数減ると思うけど…。【重役付き】じゃなくなったからね。」
「OK〜!コサージュはパーティー用だね?デザインは?姫ちゃんに似合うやつ2人で相談して買ってきていい?」
「ぜひぜひ!」
そんな楽しい話をしながらだと、あっという間に〔開発営業部〕のフロアに着いてしまう。
――コンコン、ガチャ!
「おはようございます、部長…それから課長。」
「あぁ…おはようございます。立花さん、姫野さん、鈴原さん。」
今日も爽やかな笑顔で迎えてくれる鳴海部長。
「おはようございます。“しーちゃん”、今日ちょっと早かったんだね。どうしたの?」
「だから“しーちゃん”って…。朝日奈課長!!……どうする?鈴原さんからいく?」
「そ、そうですね。」
柚ちゃんがソワソワしながらまず本条課長と堤課長の元へ向かい、彼らに自信無さげに伝える。
「金曜日はご馳走様でした。ただ…ごめんなさい、今回もお2人用に【甘さ控えめ】のものを作る時間も技術も無くて……。【普通の甘さ】のクッキーです。味も今までよりは上手にできたかなとは思いますけど、お口に合うかどうか…。」
「鈴原さん。本当に、事ある毎にありがとうございます。“鳴海先輩”に合わせて作ったなら、【一般的な甘さ】になるのは分かってますから。それに、甘いものが食べられないわけではないので…良いんですよ。そこまでのお気遣いありがとうございます。」
「俺も柊と同意見だ。本当に毎回ありがとうな、鈴原。…昨日、頑張って作ってたみたいだし…。…おっ、今までの成果が出てるんじゃないか?きれいに焼けてるな。」
「…えっ、なんで昴が"昨日準備してた"って知ってるんだよ?」
「鈴原から、間違いで送られてきたんですよ…俺のところに。あなた宛に送るつもりだったであろう写真がね。」
「えー!“柚”〜!」
「ご、ごめんなさい…。」
柚ちゃんは不貞腐れ気味の鳴海部長を宥めつつ、本条課長たちの傍から部長や朝日奈課長の元へ移動する。
「朝日奈課長も、ご馳走様でした。」
「はは。“先輩”、相手は昴ですよ。妬く必要あります?まぁ、気持ちは分からなくもないですけど。…いーえ。鈴原さん、ありがとう。ホントだ、見る度きれいになってるね。【“鳴海先輩”ヘの贈り物】っていうのが本音だろうけど、俺たちにも必ず用意してくれるもんね。」
そして、“本命”の前に立った柚ちゃんは…覚悟を決めてこう告げた。
「鳴海部長、ご馳走様でした。……あのっ!姫ちゃんにもずっとアドバイスもらっていたり、前回とか前々回とかに失敗したこと忘れないように書いて試行錯誤して作ったので…今までで一番きれいに焼けて、味見もしたんですけど…ちゃんと美味しかったです。だから、食べて下さいっ!」
柚ちゃんが好きな人に「食べて下さい。」とお辞儀をしながらお菓子を差し出す様子は、【"中高生カップル”の告白シーン】でも見ているかのように、甘酸っぱい感じがした――。
何かの番組でこんなシーンあった気がする。
このくすぐったいけど、ほっこりする感じ…いいなぁ。
「“柚”…。やっと自分から『食べて下さい。』って持ってきてくれたね。それだけ自信がついたってことかな。」
「自信は…ずっと無いです。」
「でも、これで3回目でしょ。僕のところに持ってきてくれたの…。」
「えっ、覚えてるんですか!?」
「もちろん!バレンタインとホワイトデーの間の【何でもない日】が1回目、ホワイトデーが2回目…そして今日が3回目だ。……過去3回の中で【一番きれいに焼けてる】し、柚が1回目も2回目も…もちろん今回も頑張ったのは、このクッキー見れば分かるよ。」
「鳴海部長…。」
さすが部長。 よかったね、柚ちゃん。
「…食べていい?柚。」
「ど、どうぞ……。」
柚ちゃんの返事を聞いてから、鳴海部長は袋を止めてある針金を逆方向に捻って…開封した。
そして、【ハート形】のプレーンクッキーを一つ摘まんで口に入れた。
「(サクッ!サクッ!)…おっ!美味いよ、“柚”。」
鳴海部長はご褒美を貰った小学生のように、にっこり笑顔でご満悦の様子。
「本当ですか!?…よかったぁー!」
部長に頭を撫でられる柚ちゃんの表情は、パァッと花が咲いたように明るい。
"人って心から幸せを感じた時、こんなに素敵な笑顔を浮かべるんだぁ。"と思い…私も自然に笑みが溢れる。
「さて。“鳴海先輩”が一つ食べたところで…俺たちも頂きますか。」
「私たちのやつも今渡しちゃいますね。」
立花さんがそう言い出してくれたのをきっかけに、私たち2人も自分が作ったお菓子を部長や課長に渡していく。
「鳴海部長と朝日奈課長には、"砂糖をかけたプレーンのラスク"と"バターラスク"…そして"キャラメルラスク"をご用意しました。本条課長と堤課長には、"バターラスク"と"抹茶ラスク"を2本ずつご用意しました。」
午前7時45分――。
我が社のエントランスホールを潜り抜け〔開発営業部〕のフロアへ向かっていると、後ろから立花さんに声を掛けられた。
「立花さん、おはようございます。こちらこそ昨日はありがとうございました。楽しかったです。」
彼女が笑顔で挨拶してくれたので、私も同じように返す。
「早いですね。」
「うん。おそらく、【あなたと同じ理由】よ。みんなが来てからなんて渡せないもの。芹沢と福原に絡まれると厄介だし。」
渡すというのは、もちろん【昨日から準備しているお菓子】だ。
「…ですね。」
「…あっ!姫ちゃーん、立花さーん。おはようございまーす!」
「柚ちゃん(鈴原さん)、おはようございます!」
「早いね、【芹沢さん・福原さん対策】?」
「そうね。」
「私もー。物渡すとこなんて見られたら、しばらく〔部長室〕から出られないもん。」
みんな考えることは同じだったみたい。
「柚ちゃんを睨む態度とか、ホント許せないのよね。上司にあんな態度…。」
「ホント、早く〔営業〕から居なくなればいいのに…。役に立たない給料泥棒。」
「ふふっ。立花さんの【毒舌】聞くとスッキリするので、それで良しですよ…私は。」
「分かる!ホントそれよね、柚ちゃん。」
「もう!鈴原さんも姫野さんも、人が良すぎるわよ。怒っていいんだからね?」
代弁、ありがとうございます…立花さん。
「あ、そうだよ…姫ちゃんごめーん!誕生日プレゼント、忙しくて買いに行けてないんだけど…何がいい?」
「あ、そうじゃない。鈴原さんと折半するわ。」
昨日のパーティーでもう十分だけど…納得しないよね、2人とも。
「昨日のお祝いで十分ですけど…。」
「ダメ!」
ふふっ、そんな同時に言わなくても…。面白い。
「うーん。…あっ、バレッタとコサージュは欲しいかも…。まぁ、コサージュは今までより使う回数減ると思うけど…。【重役付き】じゃなくなったからね。」
「OK〜!コサージュはパーティー用だね?デザインは?姫ちゃんに似合うやつ2人で相談して買ってきていい?」
「ぜひぜひ!」
そんな楽しい話をしながらだと、あっという間に〔開発営業部〕のフロアに着いてしまう。
――コンコン、ガチャ!
「おはようございます、部長…それから課長。」
「あぁ…おはようございます。立花さん、姫野さん、鈴原さん。」
今日も爽やかな笑顔で迎えてくれる鳴海部長。
「おはようございます。“しーちゃん”、今日ちょっと早かったんだね。どうしたの?」
「だから“しーちゃん”って…。朝日奈課長!!……どうする?鈴原さんからいく?」
「そ、そうですね。」
柚ちゃんがソワソワしながらまず本条課長と堤課長の元へ向かい、彼らに自信無さげに伝える。
「金曜日はご馳走様でした。ただ…ごめんなさい、今回もお2人用に【甘さ控えめ】のものを作る時間も技術も無くて……。【普通の甘さ】のクッキーです。味も今までよりは上手にできたかなとは思いますけど、お口に合うかどうか…。」
「鈴原さん。本当に、事ある毎にありがとうございます。“鳴海先輩”に合わせて作ったなら、【一般的な甘さ】になるのは分かってますから。それに、甘いものが食べられないわけではないので…良いんですよ。そこまでのお気遣いありがとうございます。」
「俺も柊と同意見だ。本当に毎回ありがとうな、鈴原。…昨日、頑張って作ってたみたいだし…。…おっ、今までの成果が出てるんじゃないか?きれいに焼けてるな。」
「…えっ、なんで昴が"昨日準備してた"って知ってるんだよ?」
「鈴原から、間違いで送られてきたんですよ…俺のところに。あなた宛に送るつもりだったであろう写真がね。」
「えー!“柚”〜!」
「ご、ごめんなさい…。」
柚ちゃんは不貞腐れ気味の鳴海部長を宥めつつ、本条課長たちの傍から部長や朝日奈課長の元へ移動する。
「朝日奈課長も、ご馳走様でした。」
「はは。“先輩”、相手は昴ですよ。妬く必要あります?まぁ、気持ちは分からなくもないですけど。…いーえ。鈴原さん、ありがとう。ホントだ、見る度きれいになってるね。【“鳴海先輩”ヘの贈り物】っていうのが本音だろうけど、俺たちにも必ず用意してくれるもんね。」
そして、“本命”の前に立った柚ちゃんは…覚悟を決めてこう告げた。
「鳴海部長、ご馳走様でした。……あのっ!姫ちゃんにもずっとアドバイスもらっていたり、前回とか前々回とかに失敗したこと忘れないように書いて試行錯誤して作ったので…今までで一番きれいに焼けて、味見もしたんですけど…ちゃんと美味しかったです。だから、食べて下さいっ!」
柚ちゃんが好きな人に「食べて下さい。」とお辞儀をしながらお菓子を差し出す様子は、【"中高生カップル”の告白シーン】でも見ているかのように、甘酸っぱい感じがした――。
何かの番組でこんなシーンあった気がする。
このくすぐったいけど、ほっこりする感じ…いいなぁ。
「“柚”…。やっと自分から『食べて下さい。』って持ってきてくれたね。それだけ自信がついたってことかな。」
「自信は…ずっと無いです。」
「でも、これで3回目でしょ。僕のところに持ってきてくれたの…。」
「えっ、覚えてるんですか!?」
「もちろん!バレンタインとホワイトデーの間の【何でもない日】が1回目、ホワイトデーが2回目…そして今日が3回目だ。……過去3回の中で【一番きれいに焼けてる】し、柚が1回目も2回目も…もちろん今回も頑張ったのは、このクッキー見れば分かるよ。」
「鳴海部長…。」
さすが部長。 よかったね、柚ちゃん。
「…食べていい?柚。」
「ど、どうぞ……。」
柚ちゃんの返事を聞いてから、鳴海部長は袋を止めてある針金を逆方向に捻って…開封した。
そして、【ハート形】のプレーンクッキーを一つ摘まんで口に入れた。
「(サクッ!サクッ!)…おっ!美味いよ、“柚”。」
鳴海部長はご褒美を貰った小学生のように、にっこり笑顔でご満悦の様子。
「本当ですか!?…よかったぁー!」
部長に頭を撫でられる柚ちゃんの表情は、パァッと花が咲いたように明るい。
"人って心から幸せを感じた時、こんなに素敵な笑顔を浮かべるんだぁ。"と思い…私も自然に笑みが溢れる。
「さて。“鳴海先輩”が一つ食べたところで…俺たちも頂きますか。」
「私たちのやつも今渡しちゃいますね。」
立花さんがそう言い出してくれたのをきっかけに、私たち2人も自分が作ったお菓子を部長や課長に渡していく。
「鳴海部長と朝日奈課長には、"砂糖をかけたプレーンのラスク"と"バターラスク"…そして"キャラメルラスク"をご用意しました。本条課長と堤課長には、"バターラスク"と"抹茶ラスク"を2本ずつご用意しました。」