さあ、好きになりましょうか。
午後4時30分。あたしは高校の校門の前にいた。セーラー服を着た女子生徒や学ランの男子生徒が次々と出てくる。


こんなとこに私服の女が立っているなんて、傍から見たらどう思われるのだろうか。保護者……いやそれはさすがに若すぎるか。不審者に思われても仕方ない。


早く、早く来いよ。


待っていること自体は平気だけど、精神的苦痛に耐えられるか。ここの卒業生でもないあたしが、高校の前で立ち続けているなんて、そのうち通報されたらどうしよう。


「あ」


しばらく待っていると、目当ての人物が目に入った。自転車に乗って二人でいる。


「関谷っ」


あたしが声を上げると、関谷は目を丸くして「愛子さん!?」と自転車に乗ったままこちらに寄ってきた。


「…………どうしたんすか。具合は?」

「大丈夫。…………話が、したくて」


搾り取るような声しか出なくて、それでも伝わったらしい関谷はもう一人の男子に向かって、「悪ぃ。今日はパスするわ」と言った。


もう一人の男子は「ああ、なるほどな。明日話聞かせろよ」とニヤニヤしながら去っていった。関谷は「なるほどなってなんだよ!」と男子の背中に浴びせていた。


「……なんか、ごめん。用事あったんでしょ?」

「ああ、全然平気ですよ。あいつとはいつも遊んでるんで。それより、本当に大丈夫ですか? 昨日ほんとにやばかったじゃないですか」

「もう大丈夫。アルコールもすっかり抜けたし。授業にもちゃんと出たから」

「なら、よかったです。……で、話って?」

「えと……こないだの、…………神田の話、なんだけど」

「わかりました。じゃあ、ちょっと座りましょうか」


関谷が自転車から降りてあたしの隣で歩き始めた。いつも隣で歩いているのに、なんだかとても緊張していた。


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