さあ、好きになりましょうか。
「おまっ、昼間っから何言ってんだよ!」

「予約してもいいですか? 愛子さんの初めて」

「聞けえ!」

「愛子さん、顔真っ赤ですよー」


関谷が指摘するように、あたしの頬が燃えるように熱くなっていた。思わずテーブルに突っ伏して手を頬に当てるとすごく熱かった。


『予約してもいいですか? 愛子さんの初めて』


くそお。昼間っから、しかも店の中でこいつはなんてことを言い出すんだ。その言い方も無駄に男前だから余計に恥ずかしい。


テーブルから頭を起こしてちらっと関谷の顔を見れば、関谷と目が合って「愛子さん、どうです?」なんて聞いてくるからますます恥ずかしくなった。


「そ、そういうのは付き合ってから言うもんでしょ!」

「だって、今のうちに言っとかないとまた他の男に取られるかもしれないじゃないですかー」

「またって、あたし取られたことねえよ」

「本気ですよ、俺」


そう言った関谷の顔がいつもと違って見えた。


真剣だ。大人びた顔だ。


あたしが関谷の歳の頃にはわからなかった。大人びた男の顔がただ怖かった。


でも、今のあたしはあの時のように無知な子供ではない。


あたしは関谷に何も言えなかった。


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