さあ、好きになりましょうか。
「その時は無理やり愛子さんを奪っちゃうかもしれないんで、そん時はすみません」

「さらっとエグイこと言わないでよ」

「だって愛子さんが言うからあ」


家の前まで来て、あたしは一度立ち止まった。


「愛子さん?」


少し進んでから関谷が振り返った。


「ちょっと自転車停めて、こっち来て」


あたしが進んだのは狭い路地裏だった。住宅街の中でもここはどこの窓からも見えないし、人目にもつかない。


つまり、すごく危ない。


「愛子さん、ここ一人だったら危ないですよ」

「知ってる」


立ち止まって関谷と向かい合う。


あたしはゆっくりと関谷に近づいた。二人の体が触れてしまいそうなくらいまで寄って、関谷の腕に触った。


「愛子、さん?」


不思議そうに見つめてくる関谷の唇の端にそっと口づけた。


唇はさすがに無理だと思ったから、せめてもの償いだ。いや、何に償うのかわからないけど。


関谷の温もりを唇に感じて、あたしは離れた。急に恥ずかしくなって腕も離した。


のに、その腕を一瞬のうちに掴まれた。


< 110 / 148 >

この作品をシェア

pagetop