さあ、好きになりましょうか。
あたしだって、関谷が好きなのに。あたしだって余裕なんかない。いつだっていっぱいいっぱいだ。この気持ちに気付かなければ、もっと笑って話せたのに。


自分が苦しむのはいい。自業自得だから。でも、好きな人はだめだ。一番苦しめたくない人を苦しめた。決してそう願ったわけじゃない。なのに、結果的にそうなってしまった。


心臓が痛い。胸の奥が苦しい。すきっ腹にいきなり酒を入れたから酒の回りも速い。


どうすればいいの。


誰か、誰か教えてよ。


あたしはフラフラと立ち上がって鞄からペンケースを取り出した。その中からカッターナイフを手に取る。


歩く度に振動が頭に響いて痛い。


小さい頃からあたしはカッターの使い方が下手くそだった。紙は思ったように切れないし、勢い余って指を切ってしまったことだって何度もある。刃物で体が傷つくことは、転んで怪我をするより痛いとあたしは感じていた。だからあたしはカッターが嫌いだった。


なのになんで持っているんだろう。はさみ一本さえ持っていれば大学生なんて事足りるのに。


カチリと音を鳴らしてカッターの刃が顔を出す。


これは、せめてもの罪滅ぼしだ。


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