さあ、好きになりましょうか。
部屋に入ってカーペットに向かい合って座る。


「なんか飲む?」と腰を上げたら、関谷が左腕を掴んで黙って首を横に振ったからなんだか嫌な予感がした。


関谷が左腕の服の袖を掴む。あたしははっとしてその手を掴んだ。


「な、何してんのっ」

「手首、見せてください」

「は、なんで……」

「いいから、この手離してください」

「や、やだ」


嫌な予感は確信へと変わった。絶対見せてたまるものか。


「関谷こそ、離して!」

「嫌です」


必死に抵抗したけど、男の力に勝てるはずもなかった。右手は簡単に振り払われて、袖を捲られてあたしは関谷に左腕を晒した。


二人とも、その手首から目が離せなくなった。かさぶたになって赤黒くなっている、いくつもの傷痕。


酔っ払っている時はここに平気で刃を滑らせているのに、素面だとこんなに恐ろしいものはない。


見られたくなかった。他人に、特に関谷には。


これを見て、関谷は今何を思っているのだろうか。考えたくもない。あたしは自分で自分を傷つける醜い存在だと自覚しているから。


一秒でも早く関谷の視界から消したいのに、腕を動かすことができない。


関谷の指がゆっくりとその傷痕をなぞった。少しくすぐったい。


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