さあ、好きになりましょうか。
腕や足を念入りに伸ばす。大きいボールを扱うからバレーにケガはつきものだけど、少しでもけがを重傷化しないために準備体操は大事だ。


手の平や手の甲も伸ばす。中学の頃一度準備体操を怠ってブロック練習をしたらひどい突き指をして、一週間練習できなかったことがある。それ以来手も念入りに伸ばすようにしている。


「じゃあ、まずはいつも通り5分アップから」


5分アップは、二人組になってアンダーハンドパスやオーバーハンドパスでラリーをする。


かごのボールを取って、いつもやっている七海に声をかけた。


「七海、やろー」

「あ、危ないっ!!」


おそらく、男子の方から声がしたと思う。思わず声のした方へ顔を向けてしまった。ボールが飛んできた。それはわかった。ボールがやけに大きく見えた。そう思った瞬間、あたしの顔面に衝撃が降ってきた。そのはずみであたしは後ろに倒れてしまった。


「あ、愛子!?」


七海の声がする。顔面に痛みがじわりと熱を持って広がる。うっすらと目を開けると、チカチカと目の前で火花が散る奥にあたしの顔を覗き込む顔がいくつも見えた。


「愛子、大丈夫?」

「大丈夫…………じゃないかも」


今は部活中だ。大きな騒ぎになってはいけないととっさに思ったあたしは体を起こしてふらふらと体育館の隅に移動した。


そっと手を顔に当てたら眼鏡の鼻当てが食い込んでいて痛かったから、あたしは眼鏡を外した。


こんなんじゃあ、準備体操を念入りにしても意味ないじゃんか。


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