さあ、好きになりましょうか。
「やばいね。一気に二点差よ」

「関谷も、あのサーブ取れないのかな」


あたしがポツリと呟くと、七海が笑った。


「やっぱり気になってるんじゃない」

「だって、自分でレシーブはチーム一って言ってたから、どうなのかなって思ったから」

「それ以前に、リベロにサーブは狙う人ってそうそういないわよ。コントロールできないならまだしも」

「だよねえ」


相手のサーブが続く。今度は関谷に向かってきた。「関谷!!」とコートから声が聞こえた。


ドッと静かな音がした。ボールは勢いをなくしてセッターの元へ上がる。そこからスパイカーが相手ブロックを振りきってボールは相手コートで落ちた。


あたしは言葉が出なかった。


「すごいすごい! 関谷くん、あのサーブ取ったよ、ねえ愛子!」


七海が興奮気味にあたしの肩を掴んできた。


なんて奴。


チームメイトが取れなかったあのサーブを、いとも簡単に取ってこれまでの嫌な流れを断ち切った。いや、簡単じゃないはずだ。腕だけじゃなく足や膝の動き、相手のサーブの動きを読む洞察力。全てを一瞬で働かせて判断して、動かなければあのサーブは取れないはずだ。


しかも、連続でポイントを取られて、あちら側に流れがいっていた。当然こちら側の空気はよくないし、プレッシャーもあったはずだ。それを、関谷が完璧にレシーブしたことで完全に断ち切った。


「関谷、ナイスー!」とコートの中で他のメンバーに頭を撫でられて、関谷は満面の笑みを浮かべていた。


あ、可愛い。


今サーブを取った真剣な表情。それが緩んだ笑顔。関谷の二つの表情があたしの心の中に刻まれた。


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