さあ、好きになりましょうか。
一人の男が見える。あたしは寝転んでいるのだとわかった。あたしの上に男がいる。


二人の唇が重なる。温かい。


男の指があたしの体をなぞる。服は着ていなかった。男の温もりが直に伝わる。あたしは思わず声を上げていた。


嫌だ。


『俺のことが好きなんでしょ? なら、受け入れられるよね』


嫌だ。やめて。


『あんなに好きって言ったくせに。ま、俺は愛子の意思に関係なく犯せるからいいや』


やめて。離れて。


男の指が下がっていく。


やだ。やだ。やめて。


「関谷────!」


自分の声で目が覚めた。飛び起きる。


心臓がはち切れんばかりに鼓動を打っている。はあはあと息切れが激しい。


「……なんて夢」


昔の片思い相手を思い出すなんて後味が悪い。


しかも、現実じゃ到底ありえないことが夢で出てくるとは。


そりゃあ、あの時は思っていた。この人なら、あたしの全てを奪われても構わないと。それが現実になることはなかったけど。


あたしは息を整えて再び布団に横になった。


ていうかあたし、今関谷の名前を呼んだ?


あの子は全く関係ないのに。身勝手な罪悪感に苛まれる。


「…………ごめん、関谷」


これ以上あたしの中にまっすぐ入ってこないで。


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