さあ、好きになりましょうか。
「バレー選手はみんなボール当てるし当たりますよ。それに、顔面に当たっちゃったのも、あたしの不注意です。気にしないでください」

「あ、でも、眼鏡……」


釣り目の男子が申し訳なさそうに言った。


手元を見ると、プラスチック製のあたしの眼鏡は壊れてはいないようだった。ただ、鼻当ての部分の部品が少し歪んでいた。


あたしは少し力を入れてその部分を押したり曲げたりして位置を調節した。それから眼鏡をかけると、いつものクリアな景色が見えた。


「うん、大丈夫。これ、形状記憶のフレームだからこれくらいじゃ壊れないんですよ」

「そう? ならよかったわ」


部長がほっと胸を撫で下ろしたのがわかった。少し曲がっているかもと思ったから再び眼鏡を外してフレームを微調整していると、鼻の上、両目の目頭の骨のあたりをつままれた。


「てっ…………」

「ここ、すげー赤くなってますよ。痛そうです」


眼鏡を外しているはずなのに、釣り目の男子の顔がやけに近く見えた。じっと見つめられているのがわかる。


「あ、あの…………」


眼鏡の鼻当ての部分だとわかった。ボールが当たった衝撃でその部分に食い込んだのだ。


男の子に触れられたことなんて記憶にある限りではほとんどない。触れられた部分から顔の温度が上がっていくのがわかる。カーッと頭に血が上ってのぼせそうだ。


「あ、あの、そのっ…………だ、大丈夫だか、らっ…………」


高校生相手に口が回らないなんて、なんて情けない大学生だろうか。でも、目の前に男の子がいるこんな状況なんてあたしの20年間の人生の中で一度たりともなかった。動揺するのも仕方ない(と心の中で言い訳しておく)。


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