さあ、好きになりましょうか。
「好きなんだ」


男から放たれた言葉を、あたしはすぐには理解できなかった。


だって、目の前の男は一年前にありえないと散々思い知らされた相手だ。


同時に自分の全てを捧げたいと思った相手でもある。今となってはまっぴらごめんだけど。


大学に入学してから染めた明るい茶髪は長めだ。たれ目で、見た人全てを癒すような雰囲気を漂わせている。こんな男に好かれたら、10人中6人は確実に落ちるだろう。


今朝見た夢がフラッシュバックして目の前の男に嫌悪感を抱いている。それ以前に、こいつとはもう二度と関わりたくなかったのに。


「……今更何の用かと思えば、何言ってんの? あたしを何回振ったと思ってんの?」


今思えばあたしもばかだったのだ。


もともと中学校の時から仲良しで、高校では同じクラスで仲がよかった。男女の壁を越えて仲良しな学校だったこともあって、あたし達が仲が良くても全く浮かなかった。こいつと話していると笑顔になれた。憎まれ口を叩かれてもなぜか憎めなかった。好きになるのに時間はかからなかった。でも、好きになったのはあたしだけだった。


三年生の卒業式の直前に告白した。そして振られた。でもそれだけでは引き下がれなかった。涙が出てきたから泣きながら好きだと訴え続けた。傍から見れば痛い女だけど、あの時は好きと言い続けるしかなかった。


あれから半年。不運にもあたし達は同じ大学に進んで、たまに会えば話すような仲だった。大学に入学してから好きという気持ちこそ消えたものの、会えばその気持ちが蘇ることがなかったわけじゃない。


でも、関谷に振り回されていたから、最近は本当に忘れていた。ようやく前に進めそうだと思っていた。


そんなときに、あんな夢を見た。どうしたって意識してしまう。

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