さあ、好きになりましょうか。
あたしは二人に見られないようにこっそりと近づいて、関谷達から影になっている席に一番近い壁によりかかった。


なんであいつがあたしの席に座ってんのよ。


気付かれた? いつから?


あたしはじっと耳を澄まして二人の会話を聞いた。


「あの、そこ俺の連れが座ってたんですけど」

「知ってるよ。愛子でしょ?」


関谷は何も言わなかった。おそらく顔が強張っているだろう。


あたしの名前を呼び捨てにされるのも、相変わらず蹟に触る。


「愛子が君と来ていることは気付いていたよ。ここに来る前からね」

「……へえ。随分見てるんですね」

「そりゃあ、好きな人の姿ならどんな人混みでも見つけられるよ。君もそうでしょ?」

「まあ……否定はしませんけど」

「君は愛子の弟? 見たことないんだけど、中学生?」

「弟じゃないです、バレー部の後輩です! しかも高校生です!」


関谷が威嚇したのがわかった。


このあほ……神田の思うツボだっつの。中学生って言ったのも絶対わざとだ。


「ああ、ごめん。あまりにも小さかったからつい」


はははと神田の笑い声が聞こえる。


うわあ、こいつあからさまに喧嘩売ってるよ。


「そうか、愛子バレー部だもんね。それで知り合ったんだ」

「そうです」

「それで、愛子に頼まれたの? 一緒に尾行してくれって?」

「…………」

「愛子にどこまで聞いたの?」

「告白されたってことは……」

「なるほどね。俺が他の女の子とデートするって聞いて君を尾行に誘ったわけか。君も運が悪いね、全然関係ない愛子の私情に巻き込まれるなんて」

「……別に、関係ないってわけじゃ」


さっきから関谷の歯切れが悪い。いつもならもっとはっきり言うはずなのに。


意外に人見知りするタイプ?


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