さあ、好きになりましょうか。
「そんなの自分で言えばいいじゃないですか。俺に押し付けんな」

「それができないから…………ああ、そうか。さっきから思ってたけど、君も愛子が好きなんだね」

「そうですよ」


このばかっ。神田相手に何宣戦布告してんだよ。


「へえ、そうか、なるほどね。可愛い彼氏候補がいるから、愛子は俺にはっきり返事ができなかったわけか」

「それは知りませんけど、たぶん、愛子さんは俺がいなくてもあなたへの返事を迷ってたはずです」


関谷はそこでいったん言葉を区切った。


「……どういうことかな?」

「あなたって、簡単に言っちゃうと『好きになってくれたから好きになった』んですよね」

「それが、何か悪いの? 君みたいに自然に好きになることもいいことだけど、俺みたいに好意を向けられたらいつのまにか好きになっちゃうこともあるんだよ」

「わかってます。でも、あなたは一度愛子さんの返事を断っている。愛子さんは詳しくは言わないけど、おそらく何かされたんだと思います。それがトラウマになって今も引きずるくらい」


あたしは関谷の言葉に息を飲んだ。


忘れたはずの記憶が頭の奥から流れ込んでくる。


『ねえ、ちょっと、こっち来てよ』


『俺のことが好きなんでしょ? じゃあ、やらせてよ』


『俺が好きなら受け入れろよ。そしたら、考えてやるよ』


あたしはしゃがみ込んで頭を抱えた。頭の芯がズキズキと痛む。


やめて。あたしの中に入ってこないで。


思い出させないで。出て行って。お願いだから。


アタシハアナタニ従順ナモノジャナイ。


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