さあ、好きになりましょうか。
あたし達はカウンター席に座って、二人の間にあるお通しの生キャベツをつまんでかじった。


「この時期のキャベツは固いね」

「春先だと甘いわよねー」

「ねえ、七海」

「ん?」

「あたしって、図々しいことしてる?」


七海はカウンターにある肉味噌を小皿に移した。それをキャベツに付けてかじった。


「……どういう意味で?」

「関谷に好きになってもらったから、あたしが好きになった、って意味」

「別に、図々しくないでしょ」


七海が間髪入れずに言ってくれたのを、安心するあたしがいた。


「関谷くんは愛子に告白したけど、それに応えろとも付き合えとも言ってないわけでしょ。確かに愛子が好きになったのは、関谷くんが愛子を好きになったことが関係するだろうけど、それは一因にしかならないでしょ。愛子は応えようと思ってたわけ?」

「いや、全然。むしろ断ろうとしてたし」

「だとしたら、愛子が好きになったのは自然なことでしょ。関谷くんを見て、話して、それで好きになったんでしょ。全然普通のことじゃない」


ちょうどそこで二人の酒が運ばれてきた。「ありがとうございますー」と七海が言って、この店のオーナーという名札をかがけたおじさんが「チャーハンとラーメンはもうちょい待ってなー」と笑いかけてくれた。


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