さあ、好きになりましょうか。
「これがね、関谷くんの片思いのまま二人が付き合って愛子が好きになったら『所詮関谷くんの思いに応えようとしてるだけで本当は好きじゃないだろ』とか思ったかもね。まあ、そういう付き合い方がないわけじゃないし、それで幸せなカップルもいるからそれを否定するわけじゃないけど」

「……七海はお互い一目惚れだったからね」


あたしはレモンハイに口を付けた。レモンの酸味が鼻をついた。


「私は運がよかっただけよ。二人が同時に好きになって成立するカップルなんてそうそういるもんじゃない。この世のカップルの少なくとも7割は片方が先に好きになったやつだと思うよ。好きになってもらってから好きになることが悪いわけじゃない。好きになってもらった方が自分も好きだと錯覚するのが問題なのよ」

「…………七海、ごめん、話がよくわからなかった」

「えーと、つまり、AさんとBさんがいたとするでしょ。Aさんが先にBさんを好きになったとする。告白したんだか人伝いに伝わったかしてそれがBさんに伝わった。そしたら、BさんはAさんのことを気にかけるでしょ。で、『自分はAさんが好きなのかな』と思い始める。それで、徐々に思い込む。そして二人は付き合う。わかった?」

「んーと、つまり、BさんはAさんが好きだと勘違いしている可能性があるってこと……?」

「そういうこと。まあ、恋なんて大抵勘違いから始まるなんてよく言うけどね、自分に暗示をかけちゃうのよね。『自分はこの人が好きなんだ』ってね」

「……それじゃあ、世の中の大抵の人が勘違いしてることになるじゃん」

「そうかもね」


……あたしは好きだと勘違いしている?


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