さあ、好きになりましょうか。
「愛子さん、愛子さん」


次に愛しい声を聞いたのはそれから少ししてからだった。もっとも、あたしは頭が重くてテーブルに突っ伏して目をつぶっていたから時間感覚は全くないけど。


頭を起こすのは辛いから突っ伏したまま頭を動かすと、あたしの横に関谷が立っていた。


「あー…………関谷ぁ」


へにゃりと情けない笑みしかできなかった。


「……七海さん、愛子さん大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないから呼んだのよ。愛子、帰るわよ」

「………………あ、おかねぇ」

「私が払っといたわよ。明日請求するからね」

「…………あい。ごめん」

「いいから、帰るわよ」


頭を起こして椅子から立ち上がろうとしたら、ガクンと膝が抜けて目の前の関谷に縋り付いてしまった。


「あ、愛子さんっ」


あたしの腕を掴んで「立てますか?」と聞いてくる。あたしは関谷の背中に寄りかかって肩に腕を回して完全に関谷に介抱される形で店を出た。


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