さあ、好きになりましょうか。
「ごめん。私が乗る終電早いのよ。もう時間がやばい」

「あ、じゃあ俺が愛子さんを送り届けますよ」

「愛子、道教えられる?」


七海があたしの顔を覗き込んできたから俯いて目をつぶったまま小さく頷いた。


「じゃあ関谷くん、後は頼むわ。ほんとにごめんね、来てもらった上に任せちゃって」

「大丈夫ですよ。七海さんも気をつけてください」

「ありがと。あ、一応変なことしないように気をつけてね」


あたしはこの時七海の声を聞きながら、何言ってんだこいつと思っていた。


「大丈夫ですって。俺、意外に紳士ですよー」

「ならよかった。じゃあね、愛子」


あたしは俯いたまま重い腕を上げて軽く横に振った。


体を起こすという行為がいかに力を使うことか、今ようやく実感した。


そして、これは後から思ったことだけど、仕方ないとはいえ七海はなんて危険なことをしてくれたのだと思う。


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