さあ、好きになりましょうか。
「ねたら…………かえっていいよ…………」

「でも戸締まりしないと危ないですよ。どうするんですか」


あたしは部屋の真ん中にあるテーブルを指差した。今あたしが置いたここの鍵が置かれている。


「かぎ…………かけたら、ポストに…………………つっこんで、いいから」


やばい。苦しい。


心臓がいつも以上に激しく鼓動を打っている。酒を飲みすぎるといつもこうなる。


はあはあと息が荒くなる。部屋にあたしの荒い息遣いが響く。


「あ、愛子さん、大丈夫ですか?」

「へーき…………いつも、だから…………」

「……いつもってやばくないですか?」

「ねれば…………なおる」


あたしは目をつぶった。せめて眠りにつくまで離れたくなくて、関谷の手を強く握り締めていた。


手から伝わる温もりはあたしを安心させた。すうっと意識が遠退く。


額に温もりが触れた気がした。「……おやすみなさい、愛子さん」という関谷の声が聞こえた気がする。でも、それはあたしの都合のいい妄想かもしれない。


それが現実だったかどうかは、眠りについたあたしに確かめる術はない。


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