お見合いの達人
結婚という逃げ道をさがして何人かの人たちと出会って、
そこにある色々な事情を垣間見たせいなのか、
それとも、
私をめぐる会社のポジションが、
ここに来て流れが変わったせいなのか、
結婚という二文字が私の意識の中で薄れてきているのかもしれない。
会社を辞めたら自分は何をしたらいいのかとか、
その先を考えると今の自分を手放していいのかと、
意地だけでしがみついていた会社だったはずなのに。
「ねえ、トシ坊は私と結婚したいの?」
「えっ?そ。そりゃあもちろん!」
「なんで?」
「なんでって気にいったからだろ?」
「どこが?」
「どこがって、そうだな、どこだろ?顔?」
「はあ?」
「あ、いやいやだってさ、
お見合いの日はほとんど話すことなく逃げられたし、
会いに行っても追い払われてたし、
実際デートと名のつくものって今日が初めてだし、
これからいろいろ見つけて行くつもりだけど……
なんだか運命なんかじゃないかなって予感がしたんだ。
それじゃ駄目かな。」
だ、駄目かなって、ちょっとそんなかわいい顔で言われたら、
アラフォー女はよろっときちゃうんだから……
や、ジャスフォーだった。
「それにまた戻ってんぞ名前、トシローだろ?
ほら呼んでみ?トシロー!」
「ト、トシロー」
嬉しそうにうんうんと頷いたヤツの顔は口元が緩んでる。
名前一つでこんなご満悦で、
かわいすぎだぞ。