お見合いの達人
「ずっと無言だけど、なんかあった?」

「あ、ううん。」


大将の店を出て、

帰る私を送ってくれるトシロー。


ホント笑っちゃうくらいの距離なのに、

断固として送るって聞かない彼に負けてアパートまでの5分の道を送ってもらうことになった。


「さっきの気にしてるのかと思って、

ごめん調子こきすぎたな俺、

奈留がやっと俺の隣にいてくれるってことが嬉しくなっちゃってさ、

夢みたいなんだよ。

その前までは一言話すのだって何時間も粘ってやっとだったし。」


「ねえトシロー」

「え?」

「私だって可愛いころはあったのよ?」


「いやいや、今だって可愛いって、

っていうか何いきなり?」


「自分に自信満々ってわけじゃないから、

すごく戸惑ってる。

お見合い結構勝負掛けてたんだ。


なのに、あの時、その腰を折られたって言うか、

私の中ですごいハプニングって言うか?


今思うとすごく簡単に考えったんだよね。


逃げ道として結婚をしたかった。


誰でもいいから私を今ある場所から連れ出して欲しかったんだと思う。


ひどいよね、誰でもいいなんて、

相手に対して失礼すぎる。


そこに相手の人生があるのに、

そこまで考えてない自分本位でお見合いに望んじゃった。


ホント最低だった。ごめん。」


















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