お見合いの達人
「じゃさ、俺も行く!」


「え~?」


「だってお見合い相手が結婚するっていうのに、

 奈留1人で行ったら変じゃん」




藤吾がいるのに、トシローとか来たら大変なことになる。

今回参加するのだって藤吾から懇願されてだし。



「だっめ絶対だめ!相手の人は会社の社長の娘さんなんだからあ、

 招待状ない人が入るとか無理だから」


「そっか、じゃ終わったら連絡して、なんかあったらすぐSOSだからな。」

人差し指を立てて力説するトシローに思わず頷きそうになってはたと気がついた。


「トシローと私ってまだ付き合ってないよね?」


「付き合ってるでしょ?」

「え~っないよね?」

「ちぇっ、まあ、友達からってことだけど……さ


なあ、奈留、そろそろ俺に恋愛感情とかないの?」



「……ごめん」

トシローはがっくりと肩を落とし

苦笑いする。

正直全くないわけじゃない。

トシローと一緒にいると楽しいし安らぐ、将来も見えてくる。

このまま付き合ってもいいかもとさえ感じる時もある。


だけど、最後の願いだからと懇願した藤吾のことを思うと心が震えるのだ。

彼との縁は普通じゃないけれど、

お互いに結ばれることはないと思いながらも繋がっている刹那的な関係を、

悲劇のヒロインの様な気分を味わうことを楽しんでいるのかもしれない。


トシローには悪いけど今は、

彼との約束を果たすことだけに集中したいと思っていた。
 


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