お見合いの達人
なんて返せばよかったんだろう?

牧場から戻る車の中、私も藤吾も無言でいた。

見覚えのある景色が車窓を流れていくのを、ただ、食いつくように睨み付けていた。

そうでないと、泣き出してしまいそうだから。

泣いてすがり付いたら引き留められるだろうか?

引き留めて彼の気持ちを受け止める度量もないくせに、自分のそばに居て欲しいと願うなど許される訳がない。

「ホントに駅でいいの?」


「うん、ありがと」


駅に設置された乗降所で車を寄せて、

無言で私を見つめる藤吾になにか声をかけなくちゃって思うけどうまく言葉が出てこない。


またはないのだと宣言されて、じゃあねはない。

元気でじゃあんまりだ。

それに、彼を失う覚悟もできていない。


さっきから自問自答しているのだから。


いいの?このまま別れてしまっても?


無言で見つめあったまま言葉が出ずにいる二人の隙を割ってはいったのは、

降車場を使おうとイライラと待っていた車の クラクションだった。


「っあ、じゃあこれで私行くね!」


「ああ、うん。じゃあ」


慌てて車を降りドアを閉める。

プッ


クラクションを軽くならして、走り去る車を呆然と見送った。


名残惜しい別れも許されないのか……神様の意地悪。



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