お見合いの達人
「ごめん薫子さん。僕が考えなしだったよ、彼女は本当に知り合いってだけなんだ。

 君の働いてる姿が一目見たくてここに来てしまったんだ。

 こんな風に君を傷つけるなんて思いもしなかったんだよ」


泣き崩れる彼女の肩を抱いて心底反省しているふりをするサギー。


やられた。

そう思った。


これは芝居だ、たぶん今のサギーのターゲットは浜木薫子なのだ。

もう一息で落ちそうなところの芝居に利用されたんだ。

「ごめんね、もう帰るよ。

 君はゆっくり飲んで行って?いいよね薫子さん?」


彼女はちらりと横目で私を見るとこくりと頷くと、

「私ちょうど休憩だから、送りますね?」

とか言ってサギーと並んで店舗の外へと出て行った。


泣いてなんかいないじゃん。

なんだこりゃキツネとタヌキの莫迦し合いか?


そう言えば思い出した。

『いっそ結婚でも決めて寿退職しちゃおうかな』

浜木さんが私にいつか言った言葉だ。

彼女はこの芝居でサギーを手に入れようとしているのか?

『ううん、残念!コイツは詐欺師ですよ』と、

教えてやるべきなのかもしれないが、

お互い様なのかもしれないし、

今回は本気かもしれないし、

人の恋路を邪魔するは奴はなんとかってことわざもあるし、

ほっとくべきなのだと思いなおす。












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