お見合いの達人

「こんなものですがどうぞ」

自販機で買ったばかりの紙パックのリンゴジュースを手渡すと、


「丁度、のどが乾いていたの」

ストローをさすと勢いよく飲み干した。


「結婚式に出席してくださってありがとうございました。

あ、これお土産です」

「あ、私にまでありがとうございます」

「気にしないで、みんな同じものを注文して送ってもらっただけだから」

「いえ、それでも……」


「どうでもいいのよそんなこと。

私は、藤吾くんのことにかこつけて主人に会って欲しくないの。

それを言いに来たの」


「え?あ、お気に障ったのならすみません、ご主人と私は本当に……」

「分かってるけど、嫌なのよ」




妊娠してたりすると、

ちょっとしたことでイライラしたりすることがあるって聞いたことがある。


そうでなくてもからだが思い通りにならなくて辛いのに、

精神的な負担になるようなことは、取り除いてあげるべきだ。


「分かりました。もう連絡とったりしません。すみませんでした」


私の答えを満足そうな顔で聞くと、


「タダでとは言わないわ。


藤吾のいく先のヒントを教えてあげるわ」


「満里奈さん知って……?」


「もちろんよ。私は藤吾にとって大切な存在だもの」


紙パックをくるくると丸めながら、

私の表情を覗き込みながらふふふと愉快そうに笑う。


「というのは冗談でぇ、

くすくす、奈留美さんかわいい」

可愛いとか……どんな顔してるんだ私、感情が顔に出ててるのか?

「たまたまなの、

パパの会社の取引先の人が藤吾くんに仕事を紹介した人だったの。

慎吾さんには内緒って言われてたらしいんだけど、

私にはその会社の名前だけは教えてくれたの。

ほら、妊婦には色々世の人は優しいの」

それだけじゃないわね、

取引先の社長の娘に聞かれりゃ吐くでしょ普通。

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