お見合いの達人
−ーーーーー

「危ないだろ、俺の手を離すなよ」

「大丈夫よ心配しすぎだから」

「だって、おまえ一人の身体じゃないんだから。

自覚無さすぎだろ?」


別れを告げた時、

別れよう嫌だを繰り返した私たちは、

話し合いにもならず、

結局部屋でやってしまったのだ。

やるとか無粋すぎるけど、

ほんとにやっちまったーって感じだった。

ずっと待たせてたし……いいかなあなんて?

ほんの、ほんの出来心?

最後の記念に……?

こういうの魔がさすって言うのかも……

一回、その一回で、

出来てしまった別れられない理由。


「まだ、やっと昨日母子手帳もらったばっかりだもん。

実感湧かないし……つわりだって全然ないし……」


トシローとの子どもが私のお腹の中で息づいている。


これが運命なんだろう。

そう思うしかない。

他をすべてリセットしてトシローとの未来を選ぶための、

ワザワザ北海道まで行ってあの日きめた覚悟は、

このための伏線だったのだと。


それだけじゃない、

40になる直前からジタバタ足掻いた、

この怒濤の一年はすべてがそのために用意されていたのかもしれない。


未練もプライドも全部から解放されて、

子の男の未来と共に生きていく。

ふふふっ


思わず笑いが零れる。

「何?どうした?」

「……トシロー、幸せになろうね」

「バーカ、俺はもうすでにお前が隣にいるだけで幸せなの!

 奈留も早く幸せだって思えるようになれよな!」

「そうかあ」

「おーい奈留ー、そこは『私も幸せ』って言うところだろうって!」

「あ、そうか?」

「ったくよー」


口を尖らせながら、握ってた手をぐいっとコートのポケットの中に突っ込んだ。

あったかい。

胸がきゅんと締め付けられながら、

そっかそっかと表情を緩めた。






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