お見合いの達人
「ありがとうございました」

「いいえ、

はじめまして、私今度こちらのモールにお世話になることになった、

文具店の春日です。

よろしくお願いします」


スッとなれた様子で、

名刺を渡してきた。




にこりとほほ笑んだ彼女の赤い唇がキュッと上がったのを見た時、


静寂の朝の池でパチンと音を立てて開咲いた睡蓮を思い出した。


母がその睡蓮を見た時にいつか子どもができたら、

女だったら睡蓮と、

男だったら蓮と名づけようと決めたのだという。



ああ、運命の人だ。



全身から熱いものが迸った。



「は、はじめまして、

山原音楽スクールの蓮沼です。

よろしくお願いします」


慌ててぽけっとをまさぐると

名刺は入っていなかった。

「すみません、ちょうど持ち合わせなくて」


「大丈夫です。
そののチラシで関係者だって分かりますから」

くすくすと笑う形のいい唇が妙に生々しかった。



ああ、この人のこの口で口汚い言葉で罵られたい。

あの形のいい足で、

あのヒールで踏みつけられたい。



蓮沼永輝


今、恋に落ちました。



FIN.
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