お見合いの達人
どうやらこの男、

会社を辞めて戻ってきたらしい。


兄は喜んで彼を迎えたらしいが、

その頃になって親が残した借金のため、

牧場を抵当に取られてしまうと言うことが判ったらしい。


そこで、取引先だった薬品会社の社長が、

元々、気に入らなかった娘の恋人のピンチを、

娘と別れると言う条件で救いの手を差し伸べてきたのだという。


家や牧場を手放して恋人と別れずに婿養子になるという選択もないわけではないが、

そうすると、弟が路頭に迷ってしまう。


兄は恋人と別れることを選び、

牧場と職を失った弟を守ろうとしたのだという。


弟はその兄の選択が不本意でならない。


私とお見合いしたのは、

完全に彼女と別れたという社長への証明するための行動だということ。


理不尽な社長の要求通りに兄が動いているのが


この弟は気に入らないのだ。


これ以上関わらなければ私にとって

全く持って関係のない話だ。


関わらないなら……

さっきそれでもいいなんて思いが少しでもあった私は、

小さく胸が疼いている。

人のいい慎吾の顔が頭に浮かぶ、


馬鹿な男。


この先もそうやって貧乏くじを引き続けるのかしら?


……

あーだめだめ、私もその貧乏くじに付き合う必要はないのよ。

同情みたいな一時的な感情で流されたらイケナイ!








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