お見合いの達人
「領収書ください」

「はい、簡易型と横書き、複写式、他にもこんなものがそろっております。」

案内しながら説明すると、

くすくすと笑うので、

お客の顔を見ると、

すっかり忘却の彼方に忘れ去っていた、

野球バカの見合い相手だった。


「あなたはええと……」


「ひどいなあ、見合い相手の顔も名前も忘れちゃったわけ?」

「……ぐっ、ご、ごめんなさい」

「まあ、断った相手だもんな、忘れるのはしょうがないけどさ。」


「あっ、と、俊坊!」

「え?そう来る?」

「ごめんなさい大将がそう連呼するものだから」

「ああ、いいって、

 そういや、あんたまた見合いしたんだったっけ?」

「な、なんでそれを?」

「きのう寄ったら。あそこの彼女がそう言ってたから」


「や、もうっ、ミーコちゃんたらおしゃべりなんだから。」


「っていうか?どれがいいの領収書。」


「ああ、これ、10冊ちょうだい。

 あ、領収書もよろしく。」


「当店のレシートは領収書かねてますけど、

 手書きのものが必要ですか?」


「うん、ぜひ君の住所と電話番号。めるアドなんかもお願い。」


「はいかしこま……、ってなんでやねん!」


思わず関西弁で突っ込んだ私に

ぎゃはははっ

と俊坊は下品に笑って、


「ナイス突っ込み!いいねえ。

実は領収書はどっちでもよくってさ。

ことわられたけど、

俺はあんた気に入ったんで、

改めて付き合いたいと思って。」



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