お見合いの達人
私の父は、カメラマンだった。

田舎の大きな家の長女だった母は、

街の大きな写真館で、

毎年写真を撮るのが習慣だったと言う。


たまたまそこで、バイトをしていた父に一目ぼれして、

親の反対を押し切って家を飛び出し、父のもとに転がり込んだ。


追い返されもしなかったのだから、

二人は愛し合っていた時期もあったのかなとは思うが、

親の恋愛話なんてあまり深い事まで詮索できるものではなく

細かいことは私にはわからない。


小学生になったときには、

もう母は実家に出戻っていて、

数年後今の父と再婚した。

私の記憶にある父はいつも笑っていて優しかった。

でも、ほとんど家にいなくて、

いつも母が泣いていた記憶の方が幼心には鮮明だった。


最後に父に会ったのは、

5年前、

一度も会ったことない女の人が、

父が会いたがっていると連絡をくれた。

末期のがんで、

病院で色んな機械に繋がって生命を維持していた。

私が行った時に、

耳元で女の人が、

「娘さんですよ」

と囁くと、一瞬目を開けて


「なる……」

確かにそう言っていた。

けど、それきり。

あの優しい笑顔も声も二度と見る事も聞くこともできなかった。

私を連れて母が家を出てから、

父は誰とも結婚していなかったらしい、

連絡をくれた女の人は長年父のアシスタントをしていた人で、

長い間内縁関係だったらしい。



保険金その他の財産もその人と半々にと遺言だったらしい。

私はすべてを断ったが、

写真集と私名義の貯金通帳だけでも貰ってやってくれと手渡された。

通帳には写真集の印税が入る仕組みになっているらしく今でも時々振り込まれる。


それほど有名ではないにしろ。

私が食べていくのには困らないほどの金額がそこには記されていた。

このことは

母にも、義父にも話さなかった。


母が築いた新しい家庭に波風は立てたくなかったから。


30過ぎた私にとって静かに胸に収めるくらいの度量はあった。


時折1人の時間に開く写真集の中に、時々父を面影を探す。


私たちから離れた1人の時間

父はどんな思いで過ごしていたのだろうか。


















< 52 / 198 >

この作品をシェア

pagetop