お見合いの達人
「借りてきたぞ~!」

姿が見えないと思ったら、

野球チームのベンチから

小さな折りたたみのイスを嬉しそうに抱えて、

大将が戻ってきた。

「いやあ、悪い悪い、すっかり忘れてたよ。

 こういうのないと女は大変だからな。

 女は腰を冷やしちゃまずいからな。」

そういう問題なの大将?

お見合いを屋外でっていうのが、

もうすでに企画外なんですけど。


「さすがお父ちゃん気がきくね?

 ほら、ここに座って奈留美ちゃん。」


カチャリといすを組み立てて、

にっこりとほほ笑む順子さん。


この人はまともだと思ってたけど、

さすが大将の嫁、

この場所でやるってことの違和感はないのかい?


苦笑しながら、

おずおずと座る。


あら、割と座り心地いいかも。

空は快晴、5月の風は川面を渡ってさわさわと

身体を撫であげる。


気持ちいい。


ああ、すっかり忘れてた

外の空気感

就職してから、職場の行き帰りでしか、

外の空気を吸うなんてことしたことなかった。

普通なら休日にデートとかで外に出かけるのに、

あたしときたら、全くそういうこともなく、

休日はだらだらと部屋で過ごしてたから、


いつの間にか、取り残されてたんだ、

世間から、自然から、

いや、地球の自転から。




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