お見合いの達人
子どもみたいにはしゃいで、

歩きながら、

時折折見せる表情が悲しそうに見える。

くだらない冗談を言ってはげらげらと笑うわらうヤツ、

何とも言えない気分で見守ってしまうのは、

たぶん愛着だけでない感情が私に芽生えているせいなのだろうか。



「あ、コンビニ寄ってかなきゃ」

アパートの前まで来て、

冷蔵庫が空っぽだったこと思い出した。


「あれならまだ未開封のがあるだろ?」


「は?」

と、聞き返してから、

あれがなんであるか思い当って、

「バカっ」

と背中をけった。


「って!」


「もういいっ。」


背中をさすると語を残して

コンビニを横切りアパートの入口に駆け込んだ。


「お~い!」

部屋のドアをドンドンと叩くあいつを

空っぽの冷蔵庫を開けて、わざと無視した。


ドアを開けてあいつを受け入れたら、

きっと後悔する。


あいつのいる場所はここでは無いことなんて私も、

あいつも判っているのだから。


あいつが持つカギで開けてこの部屋に来たなら、

何かが変わるのかもしれないけど、


多分それはきっとない。

暫くして静かになるとカシャンと音がして、

それきり何も音がしなくなった。


郵便受けから落とされたものが何だったのか、

それを意味することが何なのか、


判っていたからこそ動くこともできず冷蔵庫の前に座り込んでいた。




もうとっくに切れたはずの縁。

今更追うなんてありえない。


けど、

何でだろう私の眼に涙が浮かんでいるのは……

さっき感じた感情がかわいそうでならないからかもしれない。



「藤吾……」





最初で最後、あいつの名前をつぶやいた。


< 70 / 198 >

この作品をシェア

pagetop