お見合いの達人
私はそのまだ一言だって交わしていない人に、

彼女とか言われて、

驚いて、

イスから立ち上がった。

「なんかすみません、こんなとこまで来てもらって騒がしくて。」

その人は、

帽子をとりながら、

ぺこりと頭を下げた。


前も後ろも分からないほど、日に焼けて、

笑っているその口は、

やけに白い歯が浮きたって見えた。

「はじめまして、

 棚田俊郎です。」

私は、

日焼けを通り越して焦げてしまっているその顔の表情が

気になって必要以上に凝視ししてしまった。

私が、あっけにとられているので、

気を利かせて大将が、

「ご両人!せっかくだから、

 景気づけに一発キスでもカマしたらどうだ?」

とのたまった。

このくそ親父、

冗談で許されるかってーの!

どっか回線でも切れてるんじゃないか?


「いい加減にしろ」


ブチ切れた私は、大将をぎろりとにらんで、

バックとミュールを拾い上げ、

無言でその場を飛び出した。





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