お見合いの達人
「わ。私はいたってノーマルです!

 し、失礼じゃないですか!」


私の言葉などまるで意味がないように、

手に持つエナメルでできた服を大事そうに撫でると、

妖艶な笑顔を向けてくる。


「大丈夫、初めはみんなそんな感じだけど、

でも、知ったらきっと病みつきになるから。」


「だ、大丈夫なわけがないっ、

服着ろとか意味が判んないっ」



「そうだね、

はじめからボンデージはハードル高いかな?

手始めに……

僕を踏んでみてよ。」

「踏む?」

わたしの前に跪いて、妖しい表情を向ける。


「背中。ほら、遠慮しないでいいから。」


『遠慮じゃねーだろ!ふざけんなっ』

って罵ってここから逃げたいけど、

さっきから、あちこち見回しても出口が見当たらない。

多分さっきから彼が手にしているリモコンが必要なのだろう。

ここを出るにしても、この人の協力が必要なのだ。

ゴクリと空気を飲み込むと意を決して、

「じゃあ、失礼して……」

靴を脱いで、

すでに四つん這いになってスタンバイしている蓮沼の、

こんな変態もう……さんなんてつけるかっての。

蓮沼の背中をぎゅむっと踏んでみた。

「あ……ああ」

恍惚の表情にゲンナリだ。

「もっと強く」

今にもはきそうな気分で、えいやっと踏んだ。


「イイっ、いいよ。

 今度は蹴ってみて?」


いよいよ本格的に吐きそうになってきた。


パンプス掴んで背中に叩きつけてやった。


「うっ。そう来たか。最高!」

恍惚な表情に、鳥肌が立った。


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