お見合いの達人
人の趣味趣向にどうこう言いたくはないが、

とてもじゃないが付き合えない。

「ね?

頼むよ、
そのヒール履いてもう一度やってよ。

君に会ってからずっと夢みてたんだ。」


ああ、もうどうにでもなれ。

わたしは彼が差し出したヒールに履き替え、

そのヒールをバンっと踏みならした後、

いつか読んだ漫画のセリフを言ってみた。



「君?

はあ誰に向かって?

何言ってるの?

女王様おねがいしますでしょ?

土下座をして許しを請いなさい!」



私の発した言葉にハッとしたような顔で見上げ、

フニャッと表情が崩れたようにうっとりした。


「申し訳ありません女王さま、

どうぞこの私めのからだをそのおみ足で踏みつけ罰をお与え下さい。」

ぞわわわ~~っ

虫唾が走るってこういうことなんだって、

実感する。

けどなりふり構ってなんていられない。


土下座する彼の近くに転がるリモコンを奪い

EXITのボタンを連打した。


「一生やってろ!」


すんなりと出口の扉を開いたのを確認し、

捨て台詞とリモコンをを投げつけてから、


バックをつかんで飛び出した。


後ろから悲鳴のように叫んでいる彼の声に耳をふさぎ、


一目散に逃げた。


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