佐藤さんは甘くないっ!
多幸感に包まれたのも束の間。
いつもの如く仕事を溜め込んでいた部長の所為で水曜日の朝からバタバタしていた。
そして佐藤さんが関わるらしい大きなプロジェクトは本当に動き出していて、その会議やら何やらで佐藤さんも忙しそうにしていた。
そのため日中は殆どオフィスから消えてしまい、余計に仕事の進度が下がっていた。
もちろんわたしはPCとにらめっこ、入力大会の真っ最中。
普段は穏やかな三神くんも珍しくイライラした様子で、会計伝票の打ち込みをさせられていた。
***
「……柴、すまない。正式に通達が来て、大きなプロジェクトに携わることになった。頻繁に飯に行けなくなる。」
そう資料室で打ち明けられたのが水曜日の朝。
佐藤さんは嫌そうな表情を全面に張り付けていて、ちょっと面白かった。
近々アメリカの支社と共同で大きなプロジェクトを行うらしい。
詳しいことはまだ決まってないようだし、仮に決まってもわたしにべらべらと話すようなひとではない。
それに不思議と不安が生まれなかった。
どうしてだろう。
恋愛をしたら毎日でも会いたくなって、会えないとつらくて、その悪循環にはまっていたのに。
どうしてだろう。
佐藤さんとなら上手くいく気がするのは。
「しょうがないですよ。オフィスの仕事はわたしが頑張りますから!」
えへん、と胸を張って言うと佐藤さんは何故かつまらなさそうな顔をした。
わ、わたしじゃ頼りないというのですか!?
そう問い返す間もなく、ぐっと身体ごと引き寄せられた。
「……俺に会えないのに平気そうだな」
きゅん。
佐藤さんの顔が見えないのは残念だったけど、十分殺傷能力の高い言葉。
思わず緩みそうになる頬を引き締めて、恐る恐る黒髪に触れた。