佐藤さんは甘くないっ!
すみません佐藤さん!
わたし、三神くんと必要以上に仲良くしませんから!
心の中でぐっと拳を握り、わたしはひとり誓いを立てた。
相手の不安を煽るようなことはしたくないし、わたしもされたくない。
佐藤さんと離ればなれになっている間は余計に気を引き締めて頑張ろう。
「…それで、柴に提案があるんだが」
「提案?なんですか?」
「……頼むから殴るなよ」
珍しく警戒しながら口を開いた佐藤さんを不思議に思いつつ、その提案は結果的にわたしを喜ばせることになる。
***
「そ、れ、で?」
「………平日はばたばたしてるから、週末泊まりに来ないかって」
金曜日のランチタイム。
昨日まではオフィスでパンを齧りながらPCに向かい合う辛い時間だったけど、今日はやっと外の空気を吸いながら楽しくご飯が食べられる。
佐藤さんがひとりいないだけでああも仕事の進度が変わるなんて、本当に恐ろしいひとだ。
もともと佐藤さんのお陰でなんとか纏っていた部署なので、上手く回らなくなってしまったのは仕方ないというか、当然すぎる結果だった。
宇佐野さんが中心となって動き、やっと仕事の終わりが見えてきたところだ。
それにわたしには心の支えがあったので―――そう、佐藤さんのお家にお邪魔する約束が。
わたしをランチに連れ出してくれた律香は目を見開き、まさにあんぐりと口を開けて固まっていた。
……無理もないと思う。
ついこの間まで彼氏がいない、恋愛ができない、合コンしようかな、なんて枯れた発言をしていたわたしなのに、彼氏(仮)のお家にお泊りなんて青天の霹靂も良いところだ。
わたし自身もびっくりしているし、何より誘ってもらえたのが嬉しいと思っている自分にびっくりしている。
あのカードキーはまだ大切に仕舞ってある。
もしかしたら今週末に初めて使うことになるのかもしれない。
……怖いとか不安とかはなくて、寧ろわくわくする。
佐藤さんのお家ってどんな感じなんだろう。
家具とかあんまりなさそうだな、なんて。