佐藤さんは甘くないっ!

律香は驚いて固まった表情を解いて、顎の下で両手を組んだ。

綺麗な形の唇が弧を描き、上目遣いの視線がわたしに突き刺さる。


「週末に佐藤さん家でデート?ついに柴もえっちかぁ……お母さん嬉しくて涙出ちゃう」

「ちょっと待って律香話飛びすぎまずお母さんやめて」

「付き合い始めの社会人が家でやることなんて、えっちか酒でしょー」

「…………しないって約束してる、もん」けど!!

「最初だし、下着は無難にピンクか青だなー」

「話聞いてる!?!?!?」


律香はうっとりとしたような表情で斜め上を見つめている。

……どうして当の本人より浮かれているんだろう。

わたしだって浮かれているつもり、だけど。

て、ていうかそもそもお泊りするとは言ってない!


「あのね、ちゃんと聞いて。夜ご飯はわたしが作って、ちょっとしたら帰ろうと思って。だからお泊りするつもりは…」

「ん????ごめんわたしにもわかるように日本語で説明して」

「最初から日本語だけどね。だってお泊りはいくらなんでも早すぎるって……」

「早いとは?遅いとは?30字以内で述べよ。」

「り、律香、顔が怖い……」


昼間からこんな話をしていて良いのだろうか、と疲れ切った心の中で呟く。

お家に遊びに行くこともご飯を作るのも楽しみだけど、やっぱりそういう意味では少し心配だ。

だから泊りだけは避けようと、そう思っていたんだけど…。

目の前で怖い顔をしている律香から目を逸らしてオムライスを口に運んだ。

だってそういうことはしないって宣言してるのに、お泊りは許可して良いんだろうか。

もし佐藤さんに迫られたら…………こら、顔、赤くなるな。

絶対に断って逃げ切れるかどうかって言われると情けないけど自信がない。

あんな風に甘く囁かれて優しく触れられたら………あーもう、わたしの意志って一体。

だ、断じて、そういうことはしない!けどね!!
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