佐藤さんは甘くないっ!

そんなわたしの思考を見透かしたように、やれやれと律香が肩を竦めた。

…………しない、わたしはしないぞ。

睨むように律香を見返すと、ふっと鼻で笑われてしまった。


「佐藤さんのこと信じてるんでしょ~?じゃあ問題ないよね~?」


馬鹿にしたような声音に触発され、愚かにもわたしの闘争心に火がついてしまった。

そうだ、わたしは佐藤さんを信じるって決めたんだ。

一応聞いてくれるって言ったし、大丈夫、たぶん!!

あの日資料室でやらかしてしまった黒歴史の蓋に再びガムテープを貼り直す。

もう二度と!あんなことは!致しません!!


「と、泊まってきますし!!!!何事もなくね!!!!!」


途端に律香の顔がにやにやしたものになり、しまったと思ったが遅かった。

……全く、ずるい女だ。

わたしの気持ちを知っているくせに、白々しいにも程がある。

最後の一口を胃に収めた律香は、緩んだ瞳でわたしをじっと見つめた。


「いいじゃん、好きなんでしょ?」

「………まだわかん、」

「はいはいー好きですねー好きですよねー」


…だからそれ、やめて。

不貞腐れてばくばくとオムライスを食べるわたしをケラケラと笑いながら律香が眺めていた。

絶対絶対、ぴゅあぴゅあなお泊りしてやるんだから。

律香に「つまんなーい」って言わせてやるんだから。

明日はお昼に買い物を済ませて、夕方からお泊りに行く。

佐藤さんは何でも良いって言ってくれたから、得意料理の肉じゃがを作ろう。

あと御浸しとか色々作って、お味噌汁作って、つやつやのご飯を炊こう。

それで美味しい日本酒とか飲んで、ふわふわして……いやいやもうお酒要らないわ。

明日は飲まない。

飲んでも飲まれるな。

あれなんか違う。

とにかく負けるな柴、頑張れ柴、

男のひとの家にお泊りなんて初めてで緊張しまくりだけど!!
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