佐藤さんは甘くないっ!
何階建てなのかわからない高級マンション。
エントランスから見上げるだけで首を痛めてしまいそうだ。
まさかこんな大きいなんて思ってなかった。
そりゃ合鍵作るのも時間掛かりますよね。
なんかセキュリティとか、凄そうだし。
念のためインターホンを押し、震える手でカードキーを翳した。
勝手に入ってくれなんて言われたけど、やっぱり初めてだから緊張する。
鍵が開いた直後、ひとりでに扉が開いた。
「どうぞ」
「………………お邪魔します」
扉を押えてくれる佐藤さんは、いつもの佐藤さんじゃなかった。
棘のない薔薇?鎧を着ていない戦士?
表情もなんだか柔らかく見えてくる。
シンプルで身体のラインがはっきりとわかる黒いシャツ。
すらっと嫌味のように伸びたグレーのスキニー。
スーツが堅固な鎧だとしたら、今の格好はなんだろう。
オンオフが激しく見える服装に自然と胸が高鳴る。
……なんで着飾ってもいないのに、このひとは。
髪の毛もいつもより自由に遊んでいて、所々ぴょこんと跳ねている。
ずるい。なんだそれ。
わたしが何回鏡とにらめっこして、何回服を着替え直したと思っているんだ。
「柴?荷物重かっただろ、悪かったな」
「わたしがひとりで行くって言ったんですから気にしないでください」
ひょいとエコバックを受け取ってくれたその手が逞しい。
手慣れた様子で冷蔵庫にしまっていく背中に少し見惚れてしまった。