佐藤さんは甘くないっ!

トントントン、……トン。

それなりに料理はするので、それなりの速度で野菜を切ることはできる。

……しかし、じっと見られていては、そうもいかない。


「あの、佐藤さん」

「なんだ」

「どうして隣に?」

「柴を見ていたいからだ」


…………ソウデスカ。

だからなんであなたはそうもさらっと、……そういうことを。

じと目で佐藤さんを睨み付けると、嬉しそうに口角を上げられた。

なにがそんなに面白いんだろう。

ずっと見つめられているこっちの身にもなってほしい。

せっかく料理して心を落ち着けようとしているのに、全然休まらない。


「そう睨むな。わかったよ」


佐藤さんはコーヒー片手にソファへ戻って行った。

テレビの音は流れない。

代わりにクラシックのような音が緩やかに空間を満たしていた。

ぺらりと本の頁を捲る音が聞こえる。

ひとりだと、テレビの音がいつも耳に張り付いているのに。

なんだかそうしないと寂しいような、そんな気持ちになるのに。

歌詞のない、楽器だけの音がこんなにも優しいとは思わなかった。

野菜を切る手を再び動かす。

時の流れがゆっくりな気がして、ちらっと佐藤さんを見ると目が合ってしまった。

柔らかい視線がくすぐったい。

慌てて目を逸らし、顔が熱いのは火の側にいるからだと自分に言い聞かせた。

……もう一度視線を動かすと、真剣な顔つきで読書に勤しむ佐藤さんの姿があった。

今度は、目が合わない。

思わず漏れそうになる溜息をぐっと飲み込んだ。

本を読んでいるだけでかっこいいなんて、どれだけずるいひとなんだろう。
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