佐藤さんは甘くないっ!


あれから佐藤さんはたまにちょっかいをかけてきたけど、なんとか料理が完成した。

肉じゃが、豆腐と揚げのお味噌汁、カレイの煮付け、小松菜の御浸し、きんぴらごぼう。

なんだか全体的に茶色いな、なんて思ったのは内緒。

正直あまりレパートリーがあるわけではないので、今日はこれでも頑張ったつもりだ。

甘えにも似た励ましを自分に送りつつ、料理を盛り付けてお箸やグラスを並べた。

佐藤さんにさっき粗方教えてもらったので、一応配膳までひとりでこなすことができた。


「お待たせしました」

「ありがとな、ずっと良い匂いがしてた」


我が家には炊飯器がなかった。

母はお米を鍋で炊く習慣の家で育ったので、わたしもそれにならってきた。

だって絶対、鍋で炊いた方が美味しい。

予想通り、お米を口にした佐藤さんは目を丸くして驚いていた。

今日は荷物になったけど、鍋を持参して臨んだのだ。

どうしてもこの味を知って欲しくて。


「これ……うちにあった米だよな?」

「そうですよ!お鍋だともっと美味しくなるんです!」


ふふん、と自慢げに笑うと佐藤さんは笑みを深くした。

お魚を食べるのが意外と上手い。

意外なんて言ったら怒られちゃいそうだけど。


「ああ……めちゃくちゃ美味い。肉じゃがも煮付けも、全部。本当にありがとう」


佐藤さんがあまりにも珍しい笑顔で言うものだから、心臓がびっくりして跳ねたのがわかった。

……喜んでくれて良かった。

自分が作ったものを美味しいと言って食べてもらえる。

こんなに嬉しいことがあるだろうか。

泣きそうな気持ちになりながら、わたしも肉じゃがを口に運んだ。

……きっと幸せって、こういうことだ。
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