佐藤さんは甘くないっ!
「しば……しば…」
「…………?」
「…………柴、おい、起きろ」
「……ふあ……さとーさん……?」
「気持ち良さそうに寝てたのに悪いな、そろそろ帰るだろ。送っていく」
困ったように少し眉を下げた佐藤さんの顔が視界いっぱいに映った。
いつの間にかソファに横になって眠ってしまったようだ。
そこでやっと気付く。
ああ、だからお酒、飲まなかったんだ。
我慢させちゃってたんだ。
お酒に合うご飯じゃなかったのかな、って思ってたのに。
申し訳ないことをしてしまった。
謝りたいのに、寝ぼけた頭では思考がまとまらない。
「もう22時だからな。起こすのも気が引けたが…」
佐藤さんは少し気まずそうに目を逸らした。
どうしたんだろう、と思った直後、今日の約束をしたときのことを思い出した。
佐藤さんの家に泊まるわけないじゃないですか!と顔を真っ赤にして噛み付いたことを。
「わたし……きょうはかえりません……」
「……お前、寝惚けてんのか?」
「ちがいます…………荷物、多いじゃないですか」
わたしの言葉を受けて、佐藤さんが床に置いた鞄に視線を向けた。
本当に予想外だったようで、信じられないと言う表情をしている。
……冷静に考えると結構恥ずかしいことを言ったので、寝起きじゃなかったら言えなかったかもしれない。
「…………絶対、帰ると思った」
ぼそりと佐藤さんが呟く。
しかし、この距離にいるのでそれはしっかりと耳まで届いてしまう。
頬が赤い気がする。
たぶん、わたしも同じ。
「だから……お酒、今から呑みませんか?」
「今度こそ潰してるよ」
やっぱり寝惚けていたのかもしれない。
回された佐藤さんの腕を拒まなかった。
抱き起されながら、その匂いで鼻腔を満たす。
アルコールに浮かされたような熱量に、心臓が逸るのを感じた。