佐藤さんは甘くないっ!
………まだ全然終わってないのにもう12時だなんて。
わたしもタイピングがなかなか早い方だと思うけれど、肝心の仕事は殆ど減っていない。
しかし腹が減っては戦はできぬというし…。
ちらっと佐藤さんを見ると、PC作業用の眼鏡をかけて真剣な眼差しをパソコンに向けていた。
…悔しいけれど、やっぱりかっこいい。
その証拠に、お昼休みに向かう女のひとたちがちらちらと佐藤さんを見ている。
本人は全くもって気付いていないけど。
「お仕事中失礼します。佐藤さん、お昼休みです」
「………ああ、柴、もうそんな時間か」
左手首にはめた銀色のごつごつした腕時計を眺めながら佐藤さんが独り言のように呟いた。
いかにも男の人らしい、そしてシンプルなのにかっこいいそれに思わず目を奪われる。
…いつも思うけど佐藤さんっぽい、な。
眼鏡を外して大きく伸びた佐藤さんは財布とケータイを片手に立ち上がった。
いつもは大体、時間短縮のために社員食堂で済ませてしまう。
今日はどうするんだろうと考えていたら、佐藤さんが無表情のまま振り返った。
「柴、パスタだ」
「……美味しいお店、見付けました」
「案内しろ」
…なんて短いやり取りだろう。
今に始まったことではないけど、もう少しコミュニケーション能力を身に着けた方が良いのでは……なんて口に出せるはずもなく、わたしは黙ってパスタやさんへと向かった。
後ろを着いてくる佐藤さんは終始黙ったままで、オフィスに戻ってくるまでに発した言葉は「美味い」の一言だけだった。