佐藤さんは甘くないっ!

確かにプライベートの佐藤さんはいつもと真逆で、とても優しくて、穏やかだったけど。

仕事中はやっぱり鬼のように厳しくて怖くて仏頂面で、二人きりでもない限りは付き合っていることを忘れてしまいそうなほどなのに。

やっぱりわたしには佐藤さんが変わったようになんて思えないんだけどな…。

不思議そうに首を傾げていると、野菜たっぷりのキッシュを頬張りながら宇佐野さんが頬を弛めた。


「これ内緒なんだけどね、一目惚れだったんだよ」

「え?」

「柴ちゃんのこと。担当決めるときに見て、一目惚れしたんだって」


…………あ、あの顔で、一目惚れ?

わたしは佐藤さんと初めて会った時のことを思い返していた。

蛇に睨まれた蛙のような気分だったことを覚えている。

目付きが殺人鬼みたいに怖くて、とにかくこのひと以外が担当なら誰でも良いって思ってた。

あの瞬間に、ヒトメボレ?


「な、何かの間違いでは……」

「あのときの馨の顔、今でもはっきり覚えてるよ……ぶくくっ」


また笑いのツボにヒットしてしまったようで、宇佐野さんは文字通り笑い転げている。

あのときの顔……い、いつもとさして変わらないように思うのですが…!?

それとも付き合いの長い宇佐野さんにしか見えない表情があるのかな。

わたしには見えないなんてちょっと悔しい。

……それより佐藤さん、2年も前からわたしのこと……想っていてくれたんだ…。

急に胸の中が温かいものでいっぱいになる。

さっきまでのもやもやが吹っ飛ぶくらい、優しい気持ちで満たされる。


「失礼かもしれないけど、柴ちゃん仕事一筋でずっと男っ気がなかったでしょ?」

「そ、ソウデスネ……」


うううっ……痛いところを突かれた気がした。

確かにわたしは佐藤さんに追い付くことだけを考えて仕事してきたし、律香から合コンに誘われなければ佐藤さんが告白してくることもなかったのかもしれない。
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