佐藤さんは甘くないっ!
「なのに最近可愛くなっちゃってさー」
「ごふっ!?けほ、けほっ…!!」
今度はキッシュを吹き出すところだった。
危ない。さすがにキッシュはまずい。本当に女子失格になってしまう。
宇佐野さんは何でもない事のようにさらっと言ってのけ、美味しそうにスープを口に運んでいた。
……こわい……プレイボーイこわい…!!
わたしは可愛いとかそういうの言われ慣れてないからいちいち反応しちゃうんですけどね!
「だから馨も焦って告白したんだろうなーって」
「……ただの偶然でしたよ、本当に」
あの日わたしが合コンに行くって話したから。
それが佐藤さんの狼スイッチに触ってしまったわけで、本来ならオンになるはずのないスイッチだった。
……でも、ずっとわたしのことを好きでいてくれたなら。
そのスイッチは、あの日じゃなくてもいつかオンになったのかな。
…嬉しいなんておこがましい。図々しい。
だけどやっぱり嬉しいんだから、救いようがない。
「柴ちゃんは馨と付き合ってて楽しい?」
「……はい、とても楽しいです。でも、わたし本当は、」
言ってしまっても良いのだろうか。
頭の中に黒い影がちらつく。苦しい。もうすぐなのに。
佐藤さんにもまだ言えてないこと。
律香にもまだ言えてないこと。
「…………お試し付き合いなんです、わたしたち」
さして驚いた様子もなく、宇佐野さんは相槌を打ってくれた。
お昼休み何時までだっけと考える余裕もなく、言葉は堰を切ったように溢れてくる。
なんて言われるんだろう。軽蔑されるかもしれない。
だけど、佐藤さんの親友の宇佐野さんには聞いて欲しかったのかもしれない。
どう思われたとしても、これはわたしが決めてしまったことだから。